転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
再びメインストリートを歩きながら、はたと気がついて頭を抱えた。

「あー、私イリンさんにメリアルーラさんってどんな人なのか聞きたいと思ってたのにな……」

「そんなことをしなくても俺が教えてやるが?」

「そう、です……けど」

でもできればそれは嫌だった。彼の母の思い出は悲しみと隣り合わせだから、話させればきっと悲しい気持ちにさせてしまう。

身軽になったグイード殿下が手持ち無沙汰に私に渡したテディベアの鼻をぐりぐりと弄りながら、上目遣いに私を見やった。

「お前、そういえば本当は何が好きなんだ?パイは違うんだろう。ということは何か他にあるんじゃないのか?」

「え?えー、何でしょう」

「言ってみろ。王都には結構何でもあるぞ。見てみたいものでもいい」

突然言われても困る。うーんと呻いて、結局当たり障りのない回答をする。

「じゃあ……アクセサリー、とか」

「やっぱり女はそういうのが好きだな。よし、じゃあ露店を見るか」

「露店?ですか?」

露店ってあれだよね、そこら中で道にござとか敷いて物を売ってるやつだよね。てっきり王子様はちゃんとしたお店とかに行くのかと思ってた。

そんな私の心を読んだかのように王子は肩を竦めた。

「勿論店に連れて行ってもいいが、お前は宝石とかに興味があるわけじゃないだろう?露店の方が種類も多いし面白いぞ」

「おおー……わかってますねっ、殿下!」

私の性格や興味を踏まえて行き先を考えてくれたことがなぜかとても嬉しくて、思わずにこーっと笑ってしまう。恥ずかしかったのか、それを見たグイード殿下がほんのり顔を赤らめた。

「うるさいぞお前。あと殿下と呼ぶな。グイードと呼べ、グイードと」

「はい殿下」

「……ッ」

照れ隠しなのか、私の手からテディベアを奪い取りそのふわふわの頭に顔を埋める。不覚にもその姿を可愛いと思ってしまって、私は慌てて目を逸らした。
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