しあわせ食堂の異世界ご飯2
 比較的早く山へ到着したアリアとシャルルは、用意していた地図を取り出す。
 これにはカミルと一緒に様子を見に来たときや、しあわせ食堂の常連さんに聞いたキノコ情報を書き込んであるのだ。
 赤ペンでチェックした三箇所が、キノコが多く生えているポイントになる。
「それじゃあ、まずは最初のポイントに行きましょう。早くしないと、ほかの参加者にその場所を見つけられてしまうかもしれないもの」
「はい、急ぎましょう!」
 シャルルが先頭になって、獣道を進んでいく。
 邪魔な木の枝や大きな石はシャルルがナイフで切ったり蹴飛ばしたりと処理をしてくれるので、アリアはとても歩きやすい。
 それでも、急ぎ足なので少し息はあがる。
「大丈夫ですか? アリア」
「平気。でも、シャルルは余裕そうね」
 涼しい顔をして、汗ひとつかいていない。
「これでも、元騎士団所属ですからね! これくらいへっちゃらですよ」
「頼もしいわね」
 きっと、これほど信頼できる侍女も護衛も、世界広しといえどアリアにはシャルルだけだろう。

 しばらく歩いて、キノコを収穫しようとしていたポイントに着いた。幸いまだ誰もいないけれど、残念ながら優勝できそうなほど大きなキノコは見当たらない。
 せいぜい、アリアの手のひらくらいの大きさだ。
 シャルルも辺りのキノコを見ているが、それ以上のサイズはなく、ふたりで肩を落として落胆する。
「やっぱり、早々簡単には見つからないのね」
「ですねぇ~」
 ひとまず、一番大きなキノコを収穫して次のポイントへ向かう。

 ふたつ目のポイントは、山の中腹部分だ。
 けれど、行ってみるとすでに先客の姿があった。シンシアだ。しかもその手には、先ほどアリアが収穫したよりも一回り大きなキノコが握られている。
(うぅ、負けてる……!)
 ここは気づかれないように立ち去りたいと思ったアリアだったが、シンシアに見つかってしまった。
「あら、アリア様」
「シンシア様、ここで収穫していたのですね」
「ええ。大きなキノコを見つけられたので、ほっとしました」
 満足そうに微笑むシンシアを見て、アリアは動揺する。
 セレスティーナがどれほどのキノコを見つけているかわからないが、現時点のシンシアより大きいものを見つけなければどっちみち負けてしまう。
 アリアには、ここでのんびり会話をしている余裕はない。
「わたくしも頑張らないといけませんわ。シンシア様、また後ほど……」
「ええ。わたくしも、まだ探したいですから」
 笑顔で別れ、アリアは急いで最後のポイントへ向かう。

 山道を歩きながら、思わしくない現状をどうにかして打破できないかと考えを巡らせる。けれど、制限時間もあるため、焦っていい案がまったく浮かんでこない。
 それはシャルルも同様のようで、唇を噛みしめている。
(まさかこんなにピンチになるなんて……)
 周囲を見ると、ちらほらと大会の参加者が見える。だが、すごく大きなキノコを持っている人はいない。せいぜい、アリアと同じくらいの大きさだろう。
「やっぱり、エマさんの言っていたように今年は大きいキノコが少なさそうですね」
 シャルルは、かなり僅差のサイズで決着しそうだと告げる。
「そうね。これはもう、たくさん探すしかないわ。シャルル、私の作戦にのってくれる?」
「え?」
 目をぱちくりさせて、シャルルは「どうするつもりですか?」とアリアの話に耳を傾ける。
「二手に分かれるのよ。その方がたくさん探せるし、シャルルは私がいない方が身軽に動けるでしょう?」
「えぇぇっ!? 駄目です、私はアリアの護衛も兼ねているんですから!!」
 さすがにそれは許可できないと、シャルルは首を振る。しかしこのまま話が平行線だと、制限時間になってしまう。
 今のアリアに、なりふり構っている余裕はないのだ。
「お願いシャルル、私は負けるわけにはいかないの!」
「それは、わかっています! でも、もしアリアに何かあったら……」
 自分の役目はちゃんと果たしたいと、シャルルは告げる。けれどそれ以上に、アリアに何かあったらということが一番心配なのだ。
「ほかの参加者もいるから、大丈夫よ。私は山の奥へ行かないから、お願い。ね?」
 シャルルはアリアの言葉を聞き、もう一度周囲を確認する。
 目を凝らし、耳を澄まし、風を感じ、可能な限りこの山の情報を取り込む。確かに近くには参加者が何人かいるし、野生動物がいるような音や気配もない。
 危険はなさそうだと、判断する。
「……わかりました。でも、これだけは守ってください。山の奥へ行かず、出口へ向かう道中で探してください。それなら、いいです」
 代わりにシャルルが奥の方へ行き、キノコを探してくると言う。
 さすがにこれ以上の我儘を言うことはできないので、アリアも同意する。意地でも大きなキノコを見つけなければならないので、さっそく行動開始だ。
「シャルル、山の出口で待ち合わせましょう! またあとで!」
「はい! アリアも気をつけてくださいね」
「うん」
 アリアはシャルルと別れ、山の出口方面へ向かい走り出した。
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