しあわせ食堂の異世界ご飯2
 眼前で繰り広げられたことが、信じられなかった。
 アリアを襲ってきた巨大な猪が突然中を舞って、落下したのだ。いや、正確には落下させられたのだ。自分の、目の前にいる人物によって。
 猪を斬りつけた剣を腰の鞘に戻して、あきれたようにため息をついてアリアの方を振り向いた。

「私は大人しく待っていろと、言ったはずだが?」

「り、リベルト陛下……」
 いつもの軍服を着たリント――いや、リベルトがそこに立っていた。
 ゆっくり歩いて、座り込んでいるアリアの元までやってくる。そのまま膝をついて、涙目になったアリアの頬に触れ、むにっと摘まむ。
「ふぁっ……!」
「あまり心配をかけるんじゃない。心臓が、止まるかと思った」
 大きく息をつき、リベルトはアリアの肩に顔をうずめる。あと一歩遅かったら、アリアは大怪我をしていただろうし、最悪は……。
「申し訳ありません、リベルト陛下。わたくし、ご迷惑……を……」
 別に迷惑ではない。いや、仕事の忙しいときの面倒ごとだったと言えばそうなのだが、アリアがリベルトのためにしてくれたことなので、嬉しい反面もあるのだ。
 ただ、そのやり方が非常に危険なだけで。
 王女と妃の座をかけるなんて、負けたらいったいどうするつもりだったのかとリベルトは思う。
 少し体を離して、リベルトはアリアをじっと見つめる。
「もういい」
「え?」
「無事だったのだから、もういいと言ったんだ」
 そう告げて、リベルトはアリアを後ろの木に押し付けるようにしてその唇を奪う。
「ん……っ!」
 突然のことにアリアは体勢を崩すが、リベルトの腕がその体を支える。触れている個所が、ひどく熱い。
 唇を舐められて、ぞくりとした感覚に震える。
「……はっ、ん」
 リベルトは角度を変えるように何度も口づけて、しばらく会えなかった分を補充するかのようにむさぼる。
 アリアの息はあっという間にあがってしまい、縋るようにリベルトの服を掴んだ。
「ふぁ、ん……んっ」
「……はぁ」
 リベルトの舌がアリアの唇を名残惜しそうに舐めてから、離れていく。
 アリアの顔は真っ赤になり、恥ずかしさも合わせて涙目だ。
 けれど嬉しいから嫌だとも言えず、ぎゅっとリベルトの服を掴み続けることで自分の思いを伝える。
 そんなアリアの気持ちはちゃんとリベルトに伝わっているようで、優しく頭を撫でられた。
「とりあえず、戻るぞ」
「きゃあっ」
 何の予告もなく、リベルトはアリアを抱き上げる。
「もう、何もかもいきなりすぎます」
「ちゃんと支えているから、問題はない」
「それはそうかもしれませんが……」
 猪に襲われ腰を抜かしていたのだから、大人しく抱かれていなさいとリベルトの顔に書いてあるかのようだ。
「わかりました」
 まったくその通りなので、アリアは大人しく頷くことしかできない。
「山道だから、ちゃんと掴まっていろ」
「はい、もちろんで――あ!」
「? どうかしたか?」
 アリアはリベルトの肩越しに、今日一日探し求めていたものを見つけてしまった。
「あった! ありました、リベルト陛下!!」
「何が――これは確かに見事だな」
 数センチの低い崖下に目をやって、表情を緩ませる。

 大きな、椎茸の王様だ。
 広いカサの部分は、アリアが両手を広げたよりも大きい。それでいて肉厚で、高さだってアリアの腰くらいまである。
 こんな椎茸が本当に存在していたなんて、絶対に実物を見なければ信じないだろうという代物だ。
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