しあわせ食堂の異世界ご飯2
すっかり暗くなってしまった外を歩きながら、アリアはそういえば夕飯がまだだったということを思い出す。
「シャルル、ご飯どうしようか。何か食べたいものとかある?」
「う~ん、寒いから温かいものがいいです」
「それは賛成」
もう少し本格的に冬になったら、お鍋を食べたいな……なんて考える。たっぷり野菜を入れて、鶏肉や魚介類など、食べたい鍋の種類はあげていったらきりがない。
今日はどこか食堂にでも入ろうかなと思っていると、後ろからシャルルのことを呼ぶ声が聞こえてふたりで振り返り。
「こんばんは、シャルルさん! っと、姫様もいらっしゃったのですね!」
「門番さん!」
全員同時に声をあげて、慌てて声を潜める。
街中で兵士に姫様なんて呼ばれたら、正体をばらしているようなものだ。
「失礼しました……思わず」
「いえいえ。今は仕事中なんですか?」
「はい。自分、今日は夜番ですので」
今さっき仕事が始まったばかりだと、門番は笑顔で教えてくれた。寒い夜に夜勤をしなければならないなんて、門番の仕事は大変だとアリアは思う。
しかしふと、ここは門ではないと首を傾げる。
「てっきり門にいるものだと思っていたわ」
「持ち場は交代制なんです。今は、街の見回りです」
「そうだったの」
貴族やその使用人など、多くの人の顔をなるべく覚えられるよう、門番の仕事はある程度の役職になるまで全員が持ち回りで担当しているのだと教えてくれた。
(門番といったら、王城への出入りを管理しているのよね?)
もしかしたら、この門番からリベルトの情報を得ることができるのではないだろうか。そう考えて、アリアはじっと門番の顔を見る。すると、門番は思わず一歩あとずさった。
「アリア様、どうしたんですか?」
シャルルが不思議そうにしながら、「捕まえますか?」と門番の腕をがしっと掴んだ。
「え、え、え!? 自分、何もしていませんよ!?」
門番は、シャルルがその小柄な体からは想像できないような強さで腕を掴んできたことに焦り、必死で何もしていないと無罪を主張する。
「わかっているわ。ごめんなさい、問い詰めるわけじゃないのよ。シャルル、離してあげて」
「はい」
「……っ?」
アリアは苦笑して、そっと周囲に視線を巡らせる。
シャルルもアリアにならって、何もないか気配を探る。
「特に尾行がついたりとか、そういう気配はありません」
「ありがとう、シャルル。わたくしが聞きたいのは、門番さんならリベルト陛下の居場所を知っているんじゃ……っていうことなの」
もちろん知らない可能性もあるが、門番はリベルトがリントとしてしあわせ食堂に来たときに一度会っている。
もしかしたら、リントの姿のリベルトを見かけているかもしれない。
アリアの問いかけに、門番は目を瞬かせる。
「リベルト陛下をお捜しなんですか?」
「ええ。知っていたらでいいの、教えてもらえる?」
アリアの頼みに、門番は少し考えつつも「アリア様でしたら」と知っていることを教えてくれた。
「ええと……リベルト陛下でしたら、東南地区にある孤児院の近くで先ほど見かけましたよ。その、しあわせ食堂にいらしたときの服装でした」
「孤児院?」
「はい。あまりいい噂の聞かない孤児院だったんですが、最近は子供たちが元気にしています。きっと、リベルト陛下が手を回してくださったんだと思います」
今はリントとして行動していることを知り、とりあえず所在がわかりほっとする。しかしすぐに、門番は神妙な表情をアリアに向ける。
「もしかして、行かれるのですか? あそこは人通りが少なく、夜は危ないんです。アリア様が足を運ぶような場所ではありません」
もしどうしてもリベルトに用事があるなら、自分が捜しに行きますと門番は告げる。
確かに時間も遅くなってしまったので、女性ふたりで外出するには心配になるだろう。けれど、こちらにはアリアの騎士になったシャルルがいる。
ちょっとした酔っぱらいに絡まれるくらいは、問題ない。
(でも、行くと伝えたら心配をかけてしまうし、ついてくると言うかもしれない)
王族や貴族を守るのも兵士の仕事のうちなので、門番は間違いなくついてくるだろう。
リベルトには忙しいからしばらく会えないと言われているし、勝手に門番を護衛として会いにいくのは迷惑になるからよくないだろう。
アリアは苦笑して、首を振る。
「どうしてもすぐにっていうわけではないから、大丈夫よ。ありがとう、門番さん」
「いえ、とんでもないです。それでは、自分は巡回に戻りますね」
「ご苦労様です」
居場所を教えてもらったアリアとシャルルは、仕事に戻る門番を見送った。
そしてシャルルが、東南方面へ向けて歩き出す。アリアが驚いていると、シャルルはくすりと笑う。
「アリア様の考えていることなんて、お見通しですよ。リベルト陛下――リントさんを、捜すんですよね? でも、門番さんが注意してくれたので、少し見ていらっしゃらなかったら帰りましょう」
「わかったわ。ありがとう、シャルル」
シャルルに続くように、アリアも歩き始めた。
「シャルル、ご飯どうしようか。何か食べたいものとかある?」
「う~ん、寒いから温かいものがいいです」
「それは賛成」
もう少し本格的に冬になったら、お鍋を食べたいな……なんて考える。たっぷり野菜を入れて、鶏肉や魚介類など、食べたい鍋の種類はあげていったらきりがない。
今日はどこか食堂にでも入ろうかなと思っていると、後ろからシャルルのことを呼ぶ声が聞こえてふたりで振り返り。
「こんばんは、シャルルさん! っと、姫様もいらっしゃったのですね!」
「門番さん!」
全員同時に声をあげて、慌てて声を潜める。
街中で兵士に姫様なんて呼ばれたら、正体をばらしているようなものだ。
「失礼しました……思わず」
「いえいえ。今は仕事中なんですか?」
「はい。自分、今日は夜番ですので」
今さっき仕事が始まったばかりだと、門番は笑顔で教えてくれた。寒い夜に夜勤をしなければならないなんて、門番の仕事は大変だとアリアは思う。
しかしふと、ここは門ではないと首を傾げる。
「てっきり門にいるものだと思っていたわ」
「持ち場は交代制なんです。今は、街の見回りです」
「そうだったの」
貴族やその使用人など、多くの人の顔をなるべく覚えられるよう、門番の仕事はある程度の役職になるまで全員が持ち回りで担当しているのだと教えてくれた。
(門番といったら、王城への出入りを管理しているのよね?)
もしかしたら、この門番からリベルトの情報を得ることができるのではないだろうか。そう考えて、アリアはじっと門番の顔を見る。すると、門番は思わず一歩あとずさった。
「アリア様、どうしたんですか?」
シャルルが不思議そうにしながら、「捕まえますか?」と門番の腕をがしっと掴んだ。
「え、え、え!? 自分、何もしていませんよ!?」
門番は、シャルルがその小柄な体からは想像できないような強さで腕を掴んできたことに焦り、必死で何もしていないと無罪を主張する。
「わかっているわ。ごめんなさい、問い詰めるわけじゃないのよ。シャルル、離してあげて」
「はい」
「……っ?」
アリアは苦笑して、そっと周囲に視線を巡らせる。
シャルルもアリアにならって、何もないか気配を探る。
「特に尾行がついたりとか、そういう気配はありません」
「ありがとう、シャルル。わたくしが聞きたいのは、門番さんならリベルト陛下の居場所を知っているんじゃ……っていうことなの」
もちろん知らない可能性もあるが、門番はリベルトがリントとしてしあわせ食堂に来たときに一度会っている。
もしかしたら、リントの姿のリベルトを見かけているかもしれない。
アリアの問いかけに、門番は目を瞬かせる。
「リベルト陛下をお捜しなんですか?」
「ええ。知っていたらでいいの、教えてもらえる?」
アリアの頼みに、門番は少し考えつつも「アリア様でしたら」と知っていることを教えてくれた。
「ええと……リベルト陛下でしたら、東南地区にある孤児院の近くで先ほど見かけましたよ。その、しあわせ食堂にいらしたときの服装でした」
「孤児院?」
「はい。あまりいい噂の聞かない孤児院だったんですが、最近は子供たちが元気にしています。きっと、リベルト陛下が手を回してくださったんだと思います」
今はリントとして行動していることを知り、とりあえず所在がわかりほっとする。しかしすぐに、門番は神妙な表情をアリアに向ける。
「もしかして、行かれるのですか? あそこは人通りが少なく、夜は危ないんです。アリア様が足を運ぶような場所ではありません」
もしどうしてもリベルトに用事があるなら、自分が捜しに行きますと門番は告げる。
確かに時間も遅くなってしまったので、女性ふたりで外出するには心配になるだろう。けれど、こちらにはアリアの騎士になったシャルルがいる。
ちょっとした酔っぱらいに絡まれるくらいは、問題ない。
(でも、行くと伝えたら心配をかけてしまうし、ついてくると言うかもしれない)
王族や貴族を守るのも兵士の仕事のうちなので、門番は間違いなくついてくるだろう。
リベルトには忙しいからしばらく会えないと言われているし、勝手に門番を護衛として会いにいくのは迷惑になるからよくないだろう。
アリアは苦笑して、首を振る。
「どうしてもすぐにっていうわけではないから、大丈夫よ。ありがとう、門番さん」
「いえ、とんでもないです。それでは、自分は巡回に戻りますね」
「ご苦労様です」
居場所を教えてもらったアリアとシャルルは、仕事に戻る門番を見送った。
そしてシャルルが、東南方面へ向けて歩き出す。アリアが驚いていると、シャルルはくすりと笑う。
「アリア様の考えていることなんて、お見通しですよ。リベルト陛下――リントさんを、捜すんですよね? でも、門番さんが注意してくれたので、少し見ていらっしゃらなかったら帰りましょう」
「わかったわ。ありがとう、シャルル」
シャルルに続くように、アリアも歩き始めた。