しあわせ食堂の異世界ご飯2
アリアとシャルルは並んで歩いているが、予想より人通りが少なくなってきて少し不安になる。
門番が言っていた言葉通りではあるのだが、それ以上に思える。
しあわせ食堂がある西地区と違って、治安自体がよくないのかもしれない。
家も比較的少ないため、通りに明りも少ない。ときおりすれ違うのは千鳥足の酔っぱらいばかりで、本当にリントはこんなところにいるのだろうかと疑問に思うほどだ。
シャルルは警戒するように周囲を見回して、このまま進んでいいものかと悩む。
「思っていたよりも、暗いですね。この辺りを夜に歩くのは、あまりよくないような気がします。アリア様、リントさんが無事なことはわかりましたし、ひとまず今は帰りませんか?」
「そうね……」
昼間の時間帯であればよかったけれど、夜は酔っぱらったごろつき数人に絡まれたら大変だ。ひとりやふたりであればシャルルが追い払ってくれるけれど、多勢でこられたら厳しいかもしれない。
今は、自分たちの身の安全を最優先に考えた方がいいだろう。
(私に何かあったら、シャルルの責任にされてしまうし……)
たとえアリアが不問にしても、シャルルが自分で己を責めてしまうだろうし、エストレーラ側から侍女の任を解かれてしまう可能性もある。
「しあわせ食堂に帰りましょう。シャルル、遅くまで付き合わせちゃって――」
「アリア様、待ってください」
「え?」
戻ろうとすると、シャルルが辺りを見回す。
そしてその視線は、アリアのいる位置から一本奥の通りでピタリと止まった。そこに何かあるようで、シャルルがゆっくりと歩いて行く。
アリアも急いで後に続くと、小さなうめき声が耳に届いた。
薄暗い通路は空き瓶などが落ちていて、清掃が行き届いているとは言えない。隅には埃がたまっていて、上には壁の上に板がのせられているので昼の間も暗そうだ。
(誰か倒れてるの?)
もしそうなら、助けなければ。
そう思ったアリアだったが、通路を覗いて息を呑む。壁に寄り掛かるようにしてうずくまっていたのが、リントだったからだ。
その呼吸は浅く繰り返されていて、苦しそうにしている。意識は朦朧としているのか、アリアとシャルルには気づかない。
ローレンツは見当たらないので、リントひとりだけのようだ。
「リントさん!!」
アリアは駆け寄って、ぐったりしているリントの名前を何度も呼ぶ。
「しっかりしてください、大丈夫ですか? 私のことがわかりますか!?」
「……はぁ、アリア? いや、こんなところに……いるはずがない」
「よかった、私がわかるんですね」
ほっとすると、次はシャルルが膝をついてリントの様子を見る。首筋に手を添えて脈を図り、体温が低すぎたり高すぎたりしないかも確認する。
「少し脈が早くて、熱があるみたいです。……失礼します」
シャルルはリントの下瞼を確認し、首の後ろなども見ていく。アリアには的確な処置ができないため、今はシャルルに任せるしかない。
一通りの確認を終えたシャルルは、ふうと息をつく。
「命に別状はないようです。アリア様、ひとまず場所を移動しましょう」
「ええ、急ぎましょう」
無事だったが、このままの状態で放置しておくわけにはいかない。
シャルルはリントを担ぎ上げて、可能な限り人目につかない道を選んでしあわせ食堂を目指した。
***
門番が言っていた言葉通りではあるのだが、それ以上に思える。
しあわせ食堂がある西地区と違って、治安自体がよくないのかもしれない。
家も比較的少ないため、通りに明りも少ない。ときおりすれ違うのは千鳥足の酔っぱらいばかりで、本当にリントはこんなところにいるのだろうかと疑問に思うほどだ。
シャルルは警戒するように周囲を見回して、このまま進んでいいものかと悩む。
「思っていたよりも、暗いですね。この辺りを夜に歩くのは、あまりよくないような気がします。アリア様、リントさんが無事なことはわかりましたし、ひとまず今は帰りませんか?」
「そうね……」
昼間の時間帯であればよかったけれど、夜は酔っぱらったごろつき数人に絡まれたら大変だ。ひとりやふたりであればシャルルが追い払ってくれるけれど、多勢でこられたら厳しいかもしれない。
今は、自分たちの身の安全を最優先に考えた方がいいだろう。
(私に何かあったら、シャルルの責任にされてしまうし……)
たとえアリアが不問にしても、シャルルが自分で己を責めてしまうだろうし、エストレーラ側から侍女の任を解かれてしまう可能性もある。
「しあわせ食堂に帰りましょう。シャルル、遅くまで付き合わせちゃって――」
「アリア様、待ってください」
「え?」
戻ろうとすると、シャルルが辺りを見回す。
そしてその視線は、アリアのいる位置から一本奥の通りでピタリと止まった。そこに何かあるようで、シャルルがゆっくりと歩いて行く。
アリアも急いで後に続くと、小さなうめき声が耳に届いた。
薄暗い通路は空き瓶などが落ちていて、清掃が行き届いているとは言えない。隅には埃がたまっていて、上には壁の上に板がのせられているので昼の間も暗そうだ。
(誰か倒れてるの?)
もしそうなら、助けなければ。
そう思ったアリアだったが、通路を覗いて息を呑む。壁に寄り掛かるようにしてうずくまっていたのが、リントだったからだ。
その呼吸は浅く繰り返されていて、苦しそうにしている。意識は朦朧としているのか、アリアとシャルルには気づかない。
ローレンツは見当たらないので、リントひとりだけのようだ。
「リントさん!!」
アリアは駆け寄って、ぐったりしているリントの名前を何度も呼ぶ。
「しっかりしてください、大丈夫ですか? 私のことがわかりますか!?」
「……はぁ、アリア? いや、こんなところに……いるはずがない」
「よかった、私がわかるんですね」
ほっとすると、次はシャルルが膝をついてリントの様子を見る。首筋に手を添えて脈を図り、体温が低すぎたり高すぎたりしないかも確認する。
「少し脈が早くて、熱があるみたいです。……失礼します」
シャルルはリントの下瞼を確認し、首の後ろなども見ていく。アリアには的確な処置ができないため、今はシャルルに任せるしかない。
一通りの確認を終えたシャルルは、ふうと息をつく。
「命に別状はないようです。アリア様、ひとまず場所を移動しましょう」
「ええ、急ぎましょう」
無事だったが、このままの状態で放置しておくわけにはいかない。
シャルルはリントを担ぎ上げて、可能な限り人目につかない道を選んでしあわせ食堂を目指した。
***