しあわせ食堂の異世界ご飯2
「柚子がたくさん買えてよかったですね」
「おまけもしてもらっちゃったものね」
 市場からの帰り道、アリアは手提げのカゴいっぱいまで購入した柚子にご機嫌だ。大量に買う人はほとんどいないようで、店主も喜んでくれた。
 実はアリアが帰ったあとに、それを見ていたしあわせ食堂のお客さんが自分もと購入してとても売れたりしたのだが……それはアリアのあずかり知らぬところだ。
「早く柚子が食べたいです!」
「シャルルったら、せっかちね。慌てなくても、たくさん買ったし柚子は逃げないわ」
 とはいえ、アリアも早く柚子を料理したくてうずうずしていたりする。

 しあわせ食堂に帰ってくると、厨房から美味しそうなお肉の焼けるいい匂いがしていた。
 シャルルが鼻をぴくぴくっと動かし、「これはハンバーグ!」とメニューをぴしゃりと当てる。
 どうやら、カミルが厨房で料理の練習をしているらしい。
「ただいま、カミル」
「おお、ふたりともおかえり。またいろいろ買ってきたなぁ」
 荷物持ちについていけばよかったなと言いながら、カミルがアリアのカゴを受け取って食糧庫にしまってくれる。
「ハンバーグ、綺麗に焼けてるね」
「そうか? よかった!」
「これなら、カミルが焼いて出しても問題ないよ」
 今までハンバーグはアリアがひとりで焼きから盛り付けまで担当していたけれど、カミルが行っても問題はなさそうだ。
 その言葉には、カミルだけではなくシャルルも喜ぶ。
「すごい、おめでとうカミル」
「サンキュー、シャルル」
 食べる担当をしているシャルルは、そのすごさに拍手をおくる。
 シャルルは食材の確保や水洗い、切るところまでは手伝うこともできるけれど、それ以降は何もできない。
 一度アリアに料理を習ったけれど、そのときは適材適所という結論にいたった。
 ともかく、これでカミルの料理人としての幅はだいぶ広がっただろう。
 カレーは問題なく作れるようになっているので、最近は仕込みから味付けまでカミルがひとりでやることも増えてきた。
 そして今日、ハンバーグも一人でやっていいという許可が下りた。味付けをしてハンバーグのタネを作る作業は前からやっていたので、こちらの問題もない。
「あとはストロガノフと、卵焼きか」
 このふたつが大変そうだなと、カミルは苦笑する。
 ストロガノフは使う野菜の種類が多く、仕入れ状況によっては毎回違う野菜……なんていうこともあるくらいだ。
 卵焼きは、フライパンで綺麗に巻けるようになって、焦げ目をつけないギリギリのラインで巻いていくことができれば合格になる。
 このふたつは、できるようになるまでかなり時間がかかるだろう。
「こればっかりは練習あるのみですね。私も、食べるお手伝いはしますから!」
「それは頼もしいな、シャルル」
 料理のコツは教えられないが、失敗しても食べてあげるとシャルルは笑う。
 練習とはいえ食べ物を粗末にしたくはないので、カミルはシャルルの申し出をありがたく受け入れた。

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