しあわせ食堂の異世界ご飯2
 あっという間にふたりで柚子鍋を完食すると、リベルトはアリアを見る。
「さっきの言葉に、嘘はないからな」
「っ! は、はい……っ」
 今は一緒にいるという決断をできないけれど、早くアリアと一緒にいたいと思っているのは本当だ。
 リベルトはアリアの目をまっすぐ見たまま、言葉を続ける。
「それから、その……すまな」
「言わないでください」
「アリア?」
 いろいろ迷惑をかけたり、辛い思いをさせてしまった。そう思いリベルトが謝罪をしようとしたが、アリアが言い終わる前にそれを拒否する。

「ローレンツさんから、リベルト陛下の最近の様子を聞きました」
「あいつ、余計なことを……」

 そうだろうなとリベルトも思ってはいたが、実際に聞くと苦虫を噛み潰したような顔になってしまう。
「リベルト陛下のことを、想って私をここへ連れてきてくださったんです、怒らないであげてください」
「わかっている。ローレンツには、感謝しているんだ」
「はい」
 ローレンツにお咎めがないことを確認し、アリアはほっとする。
 そしてリベルトは、少し視線をさ迷わせて……空になった柚子鍋を見た。お気に召してくれたのはアリアも分かったので、その仕草が嬉しい。
「また作ってくれるか? 同じように、アリアと一緒に食べたい」
「駄目です」
「……っ!」
 少し照れたようにリベルトが告げたのだが、アリアは一蹴した。
 この前の夜、リベルトを助けたとき……関係ないと言われ同じような扱いをされたことは忘れていない。
 だから、絶対にここで『はい』なんて言ってやらないのだ。
 だからといって、ここでつんつんして終わるわけではない。
 ショックを受けて呆然としているリベルトの頬に触れて、アリアは優しく微笑む。
「次にこれを作るのは、私とリベルト陛下が結婚してからです。私はしがない食堂の料理人ですから、もうリベルト陛下と一緒にお鍋なんてできません」
 小国の姫であるアリアが、婚約もしていない大帝国の皇帝であるリベルトに料理を振る舞うことはできないけれど、料理人のアリアであれば料理を振る舞うことはできる。
 だからこの柚子鍋は、こっそり『皇帝』と『シェフ』の鍋とした。
 この関係で食べるのは、最初で最後だ。
「アリア……」
 だから、もう一度このお鍋を食べるために頑張ってくださいと告げる。アリアができることは、リベルトの背中を思いっきり押してあげることだ。
 皇帝として威厳を持ち、迷わぬよう、まっすぐ己の信念を貫けるように。甘やかすばかりではきっと駄目だと、アリアなりに考えた。
 とはいえ、それでは寂しさが蓄積されて爆発してしまう。なので、アリアは同時にもうひとつリベルトに告げる。
「……でも、寂しくなったらリントはいつでも『しあわせ食堂』にきてもいいですからね」
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