水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「兄さんがそう言うだろうから、僕が出した条件を一つ、父上に飲んでもらいました」
「条件?」
「兄さんが、曲芸団を辞めて皇室に戻ることを拒否した場合。僕は妃を娶《めと》って、皇位の第一継承者になることを許されました」
「……おい。その妃って」
砂紋の冷ややかな目が、波音を捉える。蛇に睨まれた蛙のように、波音は視線を逸らせなくなった。
「波音さんですよ。僕は彼女が気に入ったので」
「……ふざけるな。波音が許すはずがない」
「そうですか。それすらも拒むというなら、この曲芸団は、勅命《ちょくめい》でこの国では活動できないようにして、解体させます。もう、世界随一の曲芸団も終わりですね? ふふっ……あははっ」
嘲笑い始めた砂紋は、さながら、壊れてしまった人形のようだった。波音の背中を、嫌な汗が伝う。
「当然の報いです。公務はほったらかし、勝手に皇室を出たかと思えば家まで借りて。今はそこに波音さんと住んでいるんでしょう? 僕は必死に公務をこなして、自由なんてほとんどないまま父上を支えてきました。花嫁くらい、兄さんから奪ってやらないと気が済まない!」
「……砂紋。お前そこまで……」
「僕はあなたが憎い。何か信念があって、この曲芸団を始めたのだと思って理解しようとしましたが、無理でした。『幸せのピエロ』? ただの遊びじゃないですか。そんなことをしている暇があるなら、公務を手伝って、少しでも国を豊かにする方法を考えてくださいよ」
砂紋の言い分は、正当だった。碧は何も言い返せず、苦悶の表情を浮かべたまま俯いている。波音は碧が心配で、滉を見上げて助けを求めたが、滉も悔しそうに唇を噛んでいるだけだった。
「条件?」
「兄さんが、曲芸団を辞めて皇室に戻ることを拒否した場合。僕は妃を娶《めと》って、皇位の第一継承者になることを許されました」
「……おい。その妃って」
砂紋の冷ややかな目が、波音を捉える。蛇に睨まれた蛙のように、波音は視線を逸らせなくなった。
「波音さんですよ。僕は彼女が気に入ったので」
「……ふざけるな。波音が許すはずがない」
「そうですか。それすらも拒むというなら、この曲芸団は、勅命《ちょくめい》でこの国では活動できないようにして、解体させます。もう、世界随一の曲芸団も終わりですね? ふふっ……あははっ」
嘲笑い始めた砂紋は、さながら、壊れてしまった人形のようだった。波音の背中を、嫌な汗が伝う。
「当然の報いです。公務はほったらかし、勝手に皇室を出たかと思えば家まで借りて。今はそこに波音さんと住んでいるんでしょう? 僕は必死に公務をこなして、自由なんてほとんどないまま父上を支えてきました。花嫁くらい、兄さんから奪ってやらないと気が済まない!」
「……砂紋。お前そこまで……」
「僕はあなたが憎い。何か信念があって、この曲芸団を始めたのだと思って理解しようとしましたが、無理でした。『幸せのピエロ』? ただの遊びじゃないですか。そんなことをしている暇があるなら、公務を手伝って、少しでも国を豊かにする方法を考えてくださいよ」
砂紋の言い分は、正当だった。碧は何も言い返せず、苦悶の表情を浮かべたまま俯いている。波音は碧が心配で、滉を見上げて助けを求めたが、滉も悔しそうに唇を噛んでいるだけだった。