水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
*****
パンの焼ける香ばしい匂いが、波音の鼻腔《びくう》をくすぐった。ふと目を開けると、見慣れない天井と、ゆっくりと回転するプロペラが視界に入ってくる。
波音は、今ここに至るまでのことを、順を追って思い出していく。
合宿中に海で溺れ、気付いたら知らない場所にやってきて、碧に助けられ、渚と友達になり――そして、昨日。碧に襲われかけた。
(いい人だと思ってたのに……)
寝返りを打って姿勢を変える。階段側の方を向いた瞬間、少し先に碧がいた。波音は軽く叫び声を上げる。碧は腕を組み、眉間に皺を寄せて、いかにも不機嫌そうに波音を見下ろしていた。
「俺が朝食を準備してやってるっていうのに、いつまで寝てる気だ?」
「す、すみませんっ……起きます!」
「昨夜は何も食べずに寝ただろう。腹は空いてるか?」
「……はい」
冷たいのか優しいのか、分からない。波音は跳ね起きて開いていた口を閉じ、ぼさぼさになった髪の毛を手で梳《す》いて、ベッドから降りた。
昨日のように痺れて力が入らない、ということはなさそうだが、それでも歩き出すとふらふらした。栄養が足りていないのかもしれない。
すると、意外なことに、碧は波音の腕をとって支えたのだ。罪滅ぼしか、それとも純粋な親切心か。波音は目を丸くして碧の顔を見た。碧は逆に目を細めて見つめ返す。
パンの焼ける香ばしい匂いが、波音の鼻腔《びくう》をくすぐった。ふと目を開けると、見慣れない天井と、ゆっくりと回転するプロペラが視界に入ってくる。
波音は、今ここに至るまでのことを、順を追って思い出していく。
合宿中に海で溺れ、気付いたら知らない場所にやってきて、碧に助けられ、渚と友達になり――そして、昨日。碧に襲われかけた。
(いい人だと思ってたのに……)
寝返りを打って姿勢を変える。階段側の方を向いた瞬間、少し先に碧がいた。波音は軽く叫び声を上げる。碧は腕を組み、眉間に皺を寄せて、いかにも不機嫌そうに波音を見下ろしていた。
「俺が朝食を準備してやってるっていうのに、いつまで寝てる気だ?」
「す、すみませんっ……起きます!」
「昨夜は何も食べずに寝ただろう。腹は空いてるか?」
「……はい」
冷たいのか優しいのか、分からない。波音は跳ね起きて開いていた口を閉じ、ぼさぼさになった髪の毛を手で梳《す》いて、ベッドから降りた。
昨日のように痺れて力が入らない、ということはなさそうだが、それでも歩き出すとふらふらした。栄養が足りていないのかもしれない。
すると、意外なことに、碧は波音の腕をとって支えたのだ。罪滅ぼしか、それとも純粋な親切心か。波音は目を丸くして碧の顔を見た。碧は逆に目を細めて見つめ返す。