水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「はい、そろそろ休憩とるわよー!」

 聞き覚えのある声が稽古場に響く。波音が声の主を探していると、出入り口から渚が姿を現した。その背後には、滉もいる。

 波音は、渚に対して少しの罪悪感を覚え、ぎくりと肩を揺らした。

 団員たちは助監督である渚の元へと集まり、何やら説明を聞いた後、休憩のために稽古場から退散していった。残った碧と波音は、二人の元へと近づく。

「碧! 波音も来ていたのね」
「ああ」
「こんにちは、渚さん」
「あら、一日で随分元気になったみたいね?」
「はい。おかげさまで」

 予想に反して、渚は波音ににこやかに話し掛けてくれた。碧の家に泊まったことで、嫌味の一つでも言われるかと覚悟していたが、そんな様子は微塵も感じられない。

 波音は胸を撫で下ろした。渚が碧を好きになる気持ちは十分に理解できるからこそ、波音は彼を応援したいと思っている。

(よかった……)

 昨日のことだけ、黙っておけば問題ない。碧も、自ら墓穴を掘るような発言はしないだろう。

「ちょっと待ってください、団長。この人、なんで今日もここにいるんですか?」

 波音が安心していた一方で、滉は波音がまたここに来ている理由が分からないらしく、碧と波音を見比べて怪訝な顔をしている。
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