水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
(碧さんの好きな人って、一体どんな人なんだろう)

 家の中に上がり、玄関を内側から施錠する。買ったばかりのサンダルを脱いできちんと並べ、碧に借りていた方は靴箱に戻した。

 それほど酔っていないはずだが、少しだけ足元がおぼつかない。明日からの仕事に支障が出ないよう、波音も早く休むことにした。

 二階に上がろうとして、碧の姿が目に入る。上には毛布も何も掛けていない。昨夜もそうだったのだろうか。

(お腹を冷やしちゃうといけないし……)

 碧のようにパフォーマンスをする人たちは、身体が商品そのものだ。波音は一旦二階に上がると、クローゼットの中から薄手の毛布を取り出して、碧の元へと戻った。

 碧の寝顔を初めて見る。静かに寝息を立てている碧を改めて観察すると、本当に綺麗な顔をしていた。鋭い目が閉じられているだけで、なんだか幼く感じてしまう。

 波音は微笑んで、そっと毛布を掛けた。

 背を向けて、今度こそ休もうと波音が階段を上がりかけた時、碧がぶつぶつと言葉を発し始めた。慌てて振り返るが、碧は目を閉じたまま。寝言のようだ。

 何を言っているのか聞こえなくて、波音は好奇心の赴くまま、碧に近づいた。聞いてはいけないような気もしたが、欲求には勝てなかったのだ。床に膝をつき、碧の口元に耳を寄せる。
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