水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「……まず、今日のことについてだが。改めて、団長である俺の危機管理がなってなかった。本番中に怪我をさせてしまう団員が出てしまったこと、本当に申し訳ない」

 沈黙が広がる。誰も、何も言わない。いつも曲芸団のために必死な碧を見ていたら、責められるはずがないのだ。深く頭を下げる碧の姿に、波音の心もズキズキと痛む。

「今後、怪我の可能性がある演目の内容に関しては、適宜協議していくことにする。自分の腕に絶対の自信があっても、過信せず、安全な方をとるべきだ」
「団長。それは、命綱を使うこともある、ということですか?」

 真っ先に手を挙げて質問をしたのは、滉だった。彼の担当である空中ブランコは、命綱があっては演技の妨げになるだろう。

「ああ。危険な技を出して観客をハラハラさせるよりも、別の方法で魅せられないか考えるんだ。怪我の危険性が少ない、新たな演目の導入についても検討していく」
「そんな……でも、来週の公演までにすぐ新たな演目なんて……!」
「分かってる。それは徐々にだ。まずは、来週までに紫の抜けた穴をどうにかしなければならない」

 再び、辺りは静かになった。演者がいないとなると、他の団員で埋めるしかないように思える。滉のような空中曲芸師なら、すぐに適応できそうなものだが。

 波音がそう思っていると、碧の視線が波音へと向けられた。

「……波音」
「は、はいっ! なんでしょうか?」
「お前、バランス感覚に自信はあるか?」
「えっ? な、なんで……私?」
「団長……! 正気ですか!?」

 碧が何を言おうとしているのか、波音には分かってしまった。それは滉も同じだったようで、即座に異議を申し立てている。
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