水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
*****



 団員たち全員で、観客への払い戻し対応と謝罪を終えて、全ての客を見送った後。街の方の総合病院に出ていた渚が、戻ってきた。

 紫の処置は無事に終わったそうだ。彼女の脳にも異常はなく、足首に全治一ヶ月の怪我をしただけで済んだとのことだった。

「今回は運がよかったわ。下にいたスタッフがクッションになって、衝撃を和らげてくれたから」
「そうでしたか。助かって、本当によかったです」
「うん……それはそうなんだけど。碧の方も、心配ね」
「……はい」

 渚と同じく、波音もそれが気がかりだった。碧の率いてきた曲芸団が、かつてないピンチを迎えたこの局面で、どう切り抜けていくのか。

 渚と共に裏口から施設内に戻り、稽古場へと向かうと、そこにほぼ全ての団員が集められていた。ミーティングを始めるようだ。

「渚! 紫はどうだった?」

 腕組みをし、難しい顔をして座り込んでいた碧が、渚を見つけるなり立ち上がってそう聞いた。

「大丈夫よ。詳細はまた話すけど、検査の結果、命や後遺症に関わることは何もなかったわ。本人も、意識が戻ってすごく反省してた」
「……そうか。分かった、適切な対処をしてくれてありがとう。俺も後で見舞いに行く」
「うん。それがいいわ」

 血の気が引いて真っ白になっていた碧の顔に、僅かだが赤みが差した。大切な団員に何かがあったらと思うと、気が気でなかったに違いない。

 碧は手を叩き、ミーティング開始の合図を出した。
< 86 / 131 >

この作品をシェア

pagetop