水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「どうしました?」
「今……何か思い出しそうだった。なんなんだ? この既視感……」
「え?」
「でも……だめだ。すぐに消えた」
碧は目を瞑って頭を横に振り、溜め息をついた。波音といる時に彼がこうなってしまうのは、仮説通り、『碧兄ちゃん』の記憶を持つからなのか。
好奇心が溢れだし、無意識のうちに波音の口をついて出ていた。
「あの、『大和』って知りませんか?」
「やまと? 誰だ、それ」
「……あ、いえ。何でもありません」
よくよく考えてみれば、碧は波音の名前を聞いても、一切思い出せなかったのだ。兄の名前だけを教えても、意味は無い。むしろ、より一層混乱させるだけだ。
しかし、碧はむすっとして頬を膨らませた。波音が誤魔化したのがよくなかったようだ。
「お前が俺以外の男の名前を口にするのは、気分が悪い。ちゃんと説明しろ」
「えっ!? えっと、私の知っている『深水碧』のお兄ちゃんで、『深水大和』といいます」
「なるほど。で、なぜそいつの名前を出した?」
「もしかしたら、なんですけど。本当に、仮説なんですけど……。碧さんって、私の知ってる『碧兄ちゃん』なんじゃないかって、疑ってます」
「……お前、何言ってるんだ?」
「ですよね……」
すぐには信じてはくれない。だが、碧は数秒間黙り込んで、「帰ったら、詳しく話を聞かせてほしい」と言った。波音もすかさず了承した。
「今……何か思い出しそうだった。なんなんだ? この既視感……」
「え?」
「でも……だめだ。すぐに消えた」
碧は目を瞑って頭を横に振り、溜め息をついた。波音といる時に彼がこうなってしまうのは、仮説通り、『碧兄ちゃん』の記憶を持つからなのか。
好奇心が溢れだし、無意識のうちに波音の口をついて出ていた。
「あの、『大和』って知りませんか?」
「やまと? 誰だ、それ」
「……あ、いえ。何でもありません」
よくよく考えてみれば、碧は波音の名前を聞いても、一切思い出せなかったのだ。兄の名前だけを教えても、意味は無い。むしろ、より一層混乱させるだけだ。
しかし、碧はむすっとして頬を膨らませた。波音が誤魔化したのがよくなかったようだ。
「お前が俺以外の男の名前を口にするのは、気分が悪い。ちゃんと説明しろ」
「えっ!? えっと、私の知っている『深水碧』のお兄ちゃんで、『深水大和』といいます」
「なるほど。で、なぜそいつの名前を出した?」
「もしかしたら、なんですけど。本当に、仮説なんですけど……。碧さんって、私の知ってる『碧兄ちゃん』なんじゃないかって、疑ってます」
「……お前、何言ってるんだ?」
「ですよね……」
すぐには信じてはくれない。だが、碧は数秒間黙り込んで、「帰ったら、詳しく話を聞かせてほしい」と言った。波音もすかさず了承した。