水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
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「お前、筋肉が凝り固まってるぞ。練習中も、適度に休憩を挟んでストレッチしないとだめだろ?」
「んっ……碧さんが、全然休ませてっ……くれなかったからじゃないですか!」
「さっきまで『まだ練習する』って言って聞かなかったのは、どこのどいつだ?」
「うっ……それは、そうですが……んっ」

 帰宅後。簡単な食事を終えて、波音がシャワーを浴びてくると、碧は話の続きを聞く間、波音のマッサージを手伝うと申し出た。

 波音がベッドの上にうつ伏せになり、碧がその上へと跨《また》がって、背中と腰を重点的に揉んでいる。

(こ、これって……結構危ない感じなのでは!?)

 初めてここに来た日を思い出す。あれ以来、碧は波音を襲うような真似はしていないが、スキンシップは明らかに増えた。

 暴れ回る心臓の音が碧に聞こえてしまいそうで、胸に枕を抱いてカモフラージュする。

「んぅっ……んっ」
「おい、変な声を出すな」
「だっ……て、背中を押されたらっ……んっ……出ますよっ!」
「……やめた。終わりだ」

 碧はあっさりと、波音の上から降りた。まだ脹ら脛が張っているのだが、この際足は自分でどうとでもできる。波音は枕を抱いたまま、ベッドの縁に腰掛ける碧の隣へと寄った。

「マッサージ、ありがとうございま……えっ」

 波音は途中で言葉を切らざるをえなかった。黒髪の隙間から見える碧の耳が、真っ赤だったからだ。
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