クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
クリスマスが終わると数日で仕事納めになる。
総務部は今年、忘年会ができなかった。部長と課長陣の予定が全く合わず、さらにラ・マレなど大きな契約や庶務雑務で多忙だったためだ。新年会を盛大にやることにし、御用納めの28日は掃除の終わった午後にオフィス内でソフトドリンクで乾杯となった。皆でお疲れ様を言い合い、ジュースと発注したケータリングのサンドイッチを食べて今年の業務終了だ。
明日から冬期休暇で、みんな少し浮かれている。

「真純さん」

ふと、千石くんに声をかけられた。あれ、さっきあっちで部長と話してると思ったらいつのまに。千石くんとは、ここ数日仕事の話しかしていない。

「ちょっといいですか?」

なんだろう。呼ばれるままにオフィスを出たのは、どうも人に聞かれたくない雰囲気が千石くんにあったから。表情はあまり明るくないし、何かあったのだろうか。

「なに?」

自販機前のスペースは誰もいない。私は千石くんを見上げ、上司としての態度を崩さずに尋ねた。この前の出来事で、ちょっと距離感がわからなくなりそうになってるから。自分で線を引いておかなきゃ。

「真純さん、俺……」

珍しく言い淀む様子を見せ、それから千石くんが私を見つめた。明るくキラキラした瞳は今日は暗い夜の海みたいに見えた。それだけで私は嫌な予感がした。

「俺、あなたを諦めようと思います。俺ではあなたを幸せにできないかもしれない」

こくん、と喉が鳴っていた。
私は凍りつき、髪の毛一本動かせず静止していた。

私を諦める?
千石くんは私を好きでなくなる?

< 129 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop