クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
失恋。言葉にしたらなんて呆気ない。恋の終わりは夢の終わりよりあっさりしていて、本当に涙もでやしない。
それでも痛くないわけじゃないんだ。単純な痛みは、私の身体も心もくたびれさせてしまったのだと思う。

「お姉さん」

横から声をかけられた。振り向くことは億劫というより、ちょっと勇気がいった。
私は死にそうにくたびれた顔をしているだろうし、今他人に何事か声をかけられても上手に反応できる自信がなかった。

「はい」

そっと首を右に巡らすと、そこには若い男性がいた。
二十代半ばだろうか。背が高く肩幅が広い。骨格はがっしりしているけれど、太っては見えない。どちらかと言えば細身に見える。短い髪はワックスでラフに散らしていて、茶色っぽく見えるのは天然の色か、染めているのか判別がつかない。顔立ちは、若手俳優といっても差し支えないほど整っていた。きりりとした男らしい眉、アーモンド型のくっきりした瞳、大きな口は男性的で笑顔の形に口角があがっている。

「これを見てもらえませんか」

男性の手には画用紙のスケッチブックがある。そこにマジックインキの殴り書きで『FREE HUG』と書かれてあった。

「世界中のあちこちでやってるんです。ハグしてくれた人と写真撮ってね。記念にするんです」

ほら、と彼はスマホを見せてくれる。画面には人種も年齢も性別も様々な人たちと仲良く並んだ彼。
みんな楽しそうに満面の笑みだ。
< 2 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop