クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
それにしたって、なんでそんな明るいモノの一部に私を選んだんだろう。平日の夕暮れ時に、ひとりで東京タワーに来ている女を。あまり陽気な横顔だってしていなかったはずだ。

「悪いんですけど」

私は小さな声で答えた。

「そういうの得意じゃないので」
「得意不得意は関係ないですよ」

彼は明るく笑った。笑顔だけなら大学生ほど若く幼く見えた。

「ぎゅってハグして、イエーイって写真撮る。誰でもできます」

そんな軽い返しに、若干イラッとした。なんだろう、この人。ワールドワイドな価値観の人は、同じ日本人でもはっきり意志を表明しないと伝わらないのかしら。私はかすかに嘆息して、改めて言った。

「ハグとか、知らない人としたくないの」

目を見つめると吸い込まれそうな気持ちになった。透明度の高い目だ。純粋というより、真っ直ぐさを感じる。

「俺はあなたとハグしたいです」
「はぁ?」

私は今度こそ苛立ちを隠せず、口をへの字にして問い返した。すると、彼は真正面から私を見つめ、言った。

「だって、あなた、泣きそうな顔してる」

問い返す言葉もなかった。
私の両目はじんと熱くなり、次の瞬間とめどなく涙が溢れ出した。

「うそ……」

本当に嘘みたいだけど、魔法みたいだけど、彼の言葉は私のスイッチを押した。私の心を揺さぶった。
私はしゃくりあげることもせず、ただただ涙を流した。
頬を流れる熱い塊は大きな水玉を私のブラウスの胸元に作った。でも、私は泣き止めなかった。
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