クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
名前は呼べないし、私は曖昧に「ええ」とだけ相槌を打った。私の異変に千石くんが気づかないといい。

「昼休み?ちょっと今から出られない?真純の会社の近くに来てるんだ」
「えっと、ごめんなさい。ちょっと……」

はっきり断る。頭でそれは決まってる。しかし、驚きすぎて咄嗟にうまい言い訳が見つからない。

「頼むよ。ほんの5分で済むから」

何の用だろう。私は会いたくない。
でも、大翔だって別れた元カノを訪ねるにはそれなりの理由があるはず。もしかして、本当に止むに止まれぬ事情?それなら、五分くらい応じるべき?
会えば忙しい午後を前に大ダメージだとは思う。でも、ここで断る方が後々面倒くさいかも。もう連絡は取り合いたくないし。

「わかった。少し待ってて」

私は短く言って電話を切った。

「私は出てくるから。千石くんもお昼休憩とったら?午後には会場決定したいから、また相談するわ」
「わかりました」

千石くんは私の態度を別段変には思わなかったみたいだ。
私は急いでデスクに戻り財布だけ手に取ると階下に向かった。
< 38 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop