シンギュラリティ
シンギュラリティ②
竹部は完璧な恋人だ。
深夜ふと目が覚めて、顔を横に向けると竹部が眠っていた。
オッドハウスが作るアンドロイドは完璧だと思う。
皮膚の感じから、呼吸ひとつに至るまで、ほんとうに人間のようだ。

研究者の下総さんは、命を吹き込むのは先生ですよ、と言う。
そんなたいそうなことはしている覚えはないが。

「…どうしました?」
ぱちっと目を開いた竹部がわたしの方を見る。
彼のすこし細めの目がわたしは好きだ。オッドハウスとしては「典型的イケメンではない」から思い切った商品ということだったが、わたしは新型のアンドロイドが開発されても竹部を使っている。
「どうもしない」
わたしはうそぶいて、布団を自分に掛け直す。
「また仕事のことを考えていますね」
竹部はそう苦笑すると、わたしの瞼に触れる。
否応なしに、目を閉じさせられて何か文句を言おうとすると、音もなくキスをされる。

キスした時冷たいのは嫌だ。
そうわたしがオッドハウスに要請したのが5年前だろうか。
唇に温度が宿った最初のアンドロイドが竹部だった。
新型には何が搭載されているのだろうか、わたしはぼんやりと考えた。

「ほら、また考えていますね?」
竹部が横ですこし笑う。
「しょうがないじゃない、次の締め切りも迫ってきてるし」
わたしは自分を見下ろす竹部の肩をぐっと押した。
押されるがままわたしからすこし離れて、竹部が笑う。

「大丈夫、京子さんなら」

人の気も知らないで、のんきにそんなことを言う竹部に背を向けて狸寝入りを決め込む。
しばらくすると、肩に布団がかけ直される。
竹部はほんとうに、理想の恋人だ。


「…」
後日、わたしは届けられたアンドロイドをみて、なんとも言えない感情になっていた。
「服は適当に僕が」
竹部が「彼」の横に立って、そう付け加える。

「…はじめまして、皐月京子よ」
わたしが腕組みをしたまま、「彼」に近づく。
身長は竹部より高い、185くらいだろうか。
わたしと付き合うにはすこし顔が若くみえる。
さわやかで、バスケ部に一人いそうなイケメンって感じだった。
そんなもんか、と思いながら、名前を考えた。

「はじめまして、BCー28735です、京子さん、よろしくお願いします」
そういって「彼」は手を差し出す。
わたしはちょっとギョッとしたが、「彼」の手を握った。
しかしそこでもっと驚かされた。
手が暖かいのだ。

「私の型番から体温の機能が備わりました」
わたしの驚きを見透かしたかのように、「彼」は話した。

「…自分のことは俺って言いなさい、あなた若いんだから」
わたしはそう返事するのがやっとだった。
体温が欲しいとはずっとずっと、オッドハウスに進言していたことだったからだ。
しまった、このあいだのメールをよく読まなかったことが悔やまれる。
「名前は水沼、あなた、水沼ね」

つづく
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