覚悟はいいですか

礼に気づくと一瞬警戒するそぶりを見せる。が、私が大人しく彼の腕にもたれているのを見て、戸惑いながらも居ずまいをただし、丁寧にお辞儀する
私も礼の腕に掴まりながら何とか立ち、二人の仲介をする

「礼、彼女は私の同期で秘書課の京極麗奈と言います。麗奈、こちらは海棠礼さん。私達、大学が一緒だったの」

互いに挨拶を済ませると、麗奈は早速聞いてくる

「失礼ですが海棠様、うちの山口が何か……」

だが、私がいまだ動揺していることを察したのか、質問を向けた先は礼だった

「まずはどこか落ち着くところに移動しましょう。通路で話すことでもありませんし」

礼の提案に頷くと、彼女はインカムで誰かと通信する
それから会長が控室として使う客室へ私たちを連れて行った
どうやら先程の通信で、会長から指示を受けたようだ

私はだいぶ落ち着いたので、堂嶋と会ってからの出来事を自らかいつまんで話した
麗奈はお茶を入れながら聞いていたが、徐々に眉間にしわを刻み、顔を曇らせていく

「パーティーが始まって少し経ってから来たのよ、あいつ。ガーディアンから連絡を受けてあなたに近づかないように気を付けてたんだけど。式典の間は、紫織のことずっと目で追ってた。

ほんと何考えてんだかあの親子……

徳永さんの名前出したらこっちの言うことも聞いたから油断したのね、私。
ちょっとお客様に声かけられた隙に見失ってしまって。
慌てて捜してたら、そこの出入り口から飛び出してエレベーターに駆け込んで行ったからさ。何があったのかと思ってたけど」

茶托を礼の前に置き、丁寧に頭を下げる

「山口を助けていただきありがとうございました。海棠様には改めてお礼を差し上げますが、今日のところは…」
「いや、私も乗り掛かった船です。差し支えなければこのまま、彼女を送っていきたいがお許しいただけるだろうか?」

思わぬ礼の申し出に目を見開いて、私と彼を交互に見ている

「失礼だが、山口さんはショックを受けてるようだし、堂嶋もこのまま諦めるとも思えない。
また待ち伏せなどされてないとも限らないでしょう
彼女とは学生の頃からの友人ですし、みすみす危ない目に遇うのをほおってはおけません。
私を信頼して、彼女をお任せいただけますか?」

彼の紳士的な物言いに、麗奈も信頼できると判断したのだろう

「よろしくお願いいたします」ともう一度頭を下げてくれた

それからくるりとこちらを振り向いた麗奈は、意味ありげに目を細めて片方だけ口角をあげる。視線から逃げるように目を泳がせていると、私の耳元に口を寄せ、

「こっちは私があとやっておくから。その代わり、今度詳しく聞かせてもらいますからね!」

と小声で念押しするのを忘れなかった……

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