覚悟はいいですか
「…堂嶋、さ、ん」
「紫織さん、やっと会えましたね」
一歩一歩ゆっくりと私に近づいてくる堂嶋の目がギラギラと光る
口角を吊り上げ、ニヤリと笑う顔は悪魔そのものだ
「……あ、い、や……いや、来ない、で…」
2年前の記憶が恐怖と共に甦り、無意識に体が震え出す
怖い、助けて……
「それ以上、近づくな!」
ジョルジュが盾のように前に転がり込み、威嚇する
堂嶋は足を止め冷たい目で見下ろし、
「邪魔だっ」ガッ!
いきなり顔面を蹴り飛ばした
「ぐっ!」
「ジョルジュさん!」
口内を深く切ったようで、口の端から血を滴らせながらも鋭く睨み返す
その眼の鋭さに堂嶋が一瞬たじろいだ。そして後ろに控えた男達に慌てて命令を下す
「お、おい!お前、その女を連れてこい!残りのやつは男は始末しろ!」
「!」
非情な言葉に、考えるより先に体が動いた
そばに来た男に思いっきり肩からぶつかる
190㎝を優に超える屈強そうな男もさすがに油断したのか、後ろへ尻もちをついた
「ジョルジュさん!逃げて!」
「し、紫織さん!?」
私のせいで礼の大切な友人を失うわけにいかない!
その一心で必死に抵抗したが、女の身で、まして縛られた状態では太刀打ちできるはずもなかった
再び近づいた屈強な男に易々と抱え上げられ、部屋の外へ連れ去られる
「やっ!離して!」
「待てっ!彼女を離せ!!」
ジョルジュさんの声は聞こえるのに、もうその姿は見えない
「堂嶋さん!ジョルジュさんを助けて!お願い!!」
「聞けるわけないでしょう?さあ、行きますよ」
言いながら堂嶋は階段を上がると一番奥にある扉へ向かった
私も担がれたまま、その扉をくぐる
先程とは比べ物にならない豪華な調度品が並ぶ部屋に
ここが公彦の居室であることに気づき、サアッと体中の血の気が引いた
窓際のベッドにドスンと乱暴に投げられ、衝撃に頭がふらついた
眼を閉じて軽いめまいをやり過ごしていると
カチャリ…
無機質な金属音に、これから起こることが容易に想像され、背筋が凍った
「ああ、紫織さん、どれほどこの日を待ちわびたことか…」
うっとりとした声音で近づいてくる公彦の言葉が、死刑判決のように響いた