DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
「そうだったんだ。わたし、ラッキーだった。講演には間に合った?」
「ええ。宇宙物理の話だったんですけど、ぼくの目でも見えない宇宙の深淵部には、現在唱えられているブラックホールの成長に関する理論では説明できないほど巨大なブラックホールがあって、その誕生と成長の謎はまだ誰も解けていないんですよ」
姉貴はクスッと笑った。
「目がキラキラしてる。宇宙の話を始めた途端、表情が変わったわ」
「そうですか?」
「ずいぶん勉強熱心みたいね。将来は科学者になりたいの?」
「はい。日本では飛び級って難しいですけど、たまにああいう学術交流会に参加するチャンスならあって、行ってみると楽しいんですよね。
学校の勉強なんかとは全然、刺激が違います」
「いいわね、そういうの。枠から飛び出して、楽しいことができるって」