傷だらけの君は



「はい紅。この団子美味しいよ」


「みたらしのやつですか?」


「それもだけど、横のよもぎのやつ」



その日の夜は本当にお月見になった。


月がよく見える広間で、ふすまを開け放って灯りを消す。


月の明かりだけでは明るさを補えなかったけど、不思議と心もとさはなかった。



藤堂さんからよもぎ団子を受け取りひと口食べた。


よもぎの香りが口の中いっぱいに広がる。


少し苦くて、あんこの甘さで中和されて。



「......美味しい」


十五夜はまだまだ先だけど、今日の夜はそこまで蒸し暑くはない。


この前だって葉桜でお花見をやってた。



「紅ぃ〜団子に合う酒があるんだけど、呑まない?」


「だから紅はお酒飲めないって言ってんじゃん」


「あ、そっかぁ〜失敬失敬。お詫びにこの原田左之助の腹踊りを!」


「もう出してきたよ左之さんの十八番」



......きっとお酒を呑みたいだけで、葉桜も月もそこまで興味はないんだろうなあ。



原田さんの腹踊りが始まって辺りがどっと沸く。


本人は楽しそうにしているけど、そのお腹には痛々しい横一文字の傷があって、身をよじる度にその傷が笑ったり怒ったり。


昔、若気の至りで切腹した証だと原田さんは言っていた。


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