冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「おい、その女は何だ?」

 壁際に沿って、ひとつ目の角を曲がった時だった。向こうからやって来た人物が、衛兵に声をかける。

「こ、これは、テレンス殿下……!」

 衛兵たちは、フィラーナの腕を掴んだまま、頭を深く垂れる。

(え、テレンス殿下⁉ もう、なんでこんな時に……)

 フィラーナは視線を床に落とすと、なるべく彼と目を合わさないようにした。相変わらず派手な刺繍入りの上衣を纏ったテレンスは、嘗め回すようにフィラーナの全身を眺めていたが、ゆっくり近づくと彼女の顎を強引につかみ、無理やり正面を向かせた。

「ほう、こんな所で……。おい、お前たち、このご令嬢から手を離せ。王太子殿下のお妃候補のひとりだぞ」

「え、本当に……」

「こ、これは大変失礼いたしました……!」

 衛兵たちは弾かれたようにフィラーナから腕を離すと、腰を折り曲げ、頭を下げる。

「ここは私に任せて、お前たちは持ち場に戻れ」

「ハッ」

 テレンスに軽く睨まれ、衛兵たちは慌てて駆け出していき、姿を消した。

(助かった……)

 何はともあれ、テレンスのおかげでおかしなことにならずに済んだ。フィラーナも深く頭を下げ、礼を述べる。

「殿下、助けていただいてありがとうございました」

「いえ、困っているご婦人を助けるのは私の使命ですから。何があったかは分かりませんが、ひとまず、その服装を何とかしないといけないでしょう。衣裳部屋へ案内しますよ」

 テレンスは人の好さそうな穏やかな笑みを浮かべて、さりげなくフィラーナの腰に手を回し、歩き始めた。

 ウォルフレッドに同じことをされても何ともなかったのに、今は背中に虫唾が走るような嫌悪感に襲われている。何だかこのまま付いていくと、嫌な予感しかしない。
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