冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
(だめよ、こんなことで弱気になっちゃ。私らしくもない)
 
 思わず気が滅入りそうになり、フィラーナはぶんぶんと首を横に振った。

 荷馬車から転げ出た娘が意外と平気そうに歩き出したので、集まっていた人々も少しずつ散らばっていき、通りは日常の姿を取り戻す。

(どうにかして、お城に戻らないと……。でも、どうやって?)

 フィラーナは顎に指を添えて、うーん、と思案する。もし、いつも伴の者とでしか出歩いたことのない令嬢だったら、言い知れぬ孤独に怯え、たちどころに泣き崩れてしまうところだろう。しかし、過去にひとりで港町を散策し、自力で顔見知りを増やしていった経験のあるフィラーナは、その分だけ肝が据わっている。

(町の警備隊の詰所に行って保護してもらう? だけど、この恰好じゃ、また信じてもらえないのが二の舞だわ……)

 早くも行き詰ると、足に異変を感じ始めた。フィラーナは通りの路地に適当な木箱を見つけ、そこに腰かけて靴を脱いでみると、両足の小指が少し赤みを帯びていることに初めて気づいた。

 ヒールのあるドレス用の靴で、散々走り回ったせいなのは一目瞭然だ。でも、靴なしでは歩けないので、仕方なく再びそれに足を収めると、意識したぶん余計に痛みを伴い、思わず顔をしかめた。

 俯いたまま、ハァ、と気の抜けたため息が出てしまう。

 ウォルフレッドが言っていた『護衛』の大切さが、今さらながらに身に染みた。素直に彼の提案を受け入れていればミラベルへの牽制になり、この一連の出来事を回避できたはずだと思うと、自分の甘さがこの上なく情けない。
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