冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 バートはひとりの男に肩を掴まれると、振り向きざまに腹を殴られ、声も出せぬまま膝から崩れ落ちる。

「ちょっと、何するのよ……!」

 フィラーナが慌ててバートのもとにしゃがみ込むと、男がバートから引き離すように彼女の腕を乱暴に掴み、ドンと突き飛ばした。

「うっ……!」

 突然のことに体勢が取れないまま肩を地面に打ち付け、フィラーナは小さな呻き声を上げた。馬車から落下した時の負傷部分が、再びズキズキと痛み出す。

 男たちは、フィラーナとバートを見下ろしながら、苦々しく言い放った。

「俺たちは、お前の弟の対戦相手に賭けてたんだ。それなのに大損しちまった!」

「何よ、それ! 言いがかりじゃない! 神聖な選考の場で賭け事なんてする方が間違ってるわ!」

 フィラーナが顔をしかめながら、正論を述べると、そのうちのひとりが突然馬乗りになってきた。

「何するの、離れなさい!」

「冴えない野郎にしちゃ、上玉じゃねぇか。このまま痛めつけりゃ大人しくなって、連れていきやすいかもな。気の強い女はわりと好みだぜ」

「やめろ、彼女には手を出すな!」

 何とか立ち上がって叫ぶバートの顔を、もうひとりの男が殴りつける。バートはよろめきながら、地面に片膝をついた。
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