冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない



 大会が閉幕しても、フィラーナはその辺りをうろついては遠くに視線を向け、知った顔がないか探していた。

 しかし、騎士団の制服を着た男たちを数人確認することはできたが、その中にユアンの姿は見つからなかった。きっと城を出たウォルフレッドに従事して他の任務に当たっているのだろう。

 予想していた結果とはいえ、表情に落胆の色を隠せないままフィラーナは階段を昇り、やや重い足取りで出口へ向かう。石のアーチを潜り、しばらく歩いていると、前方から駆け寄ってくるバートを視界に捉えた。

 バートはロニーに会いに、先に舞台裏へと行っていたのだ。

「弟さんに祝福の言葉、言えた?」

「うん、ロニーは今、騎士団の方たちと次の選考の日取りなんかについて話を聞いてるよ。ロニーはこれまで六回挑戦して、やっとここまで来れたんだ。フィラーナが応援してくれたおかげだよ」

「そんな、私は何も。ロニーの努力の賜物よ」

「そんなことないよ。君といると、何か元気になれるんだ。勝利の女神だ……いや、何でもない。それより、フィラーナの用事は?」

 ややこしいことに巻き込みたくない気持ちから、フィラーナはバートに素性も目的も話していない。バートも、彼女を“訳ありの家出娘”だと思ったのか、詮索してこなかった。

「えっと……ここではもう済んだわ。これからどうしようか考えてるところ」

「そうか……。もし行き先に迷ってるなら、先生に相談してみるといいよ。しばらく置いてくれると思うし。そうしたら、俺もいつでも会いに行けるーー」

「お取り込み中のところ、悪いな」

 突然、野太い声がバートの背後から聞こえ、見知らぬ中年男がふたり、ぬっと現れた。
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