冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
(そんなにひどくなっていなければ、少しは安心してくれるかしら……)

 フィラーナは彼の気持ちを汲み取り、それ以上は反論せず、くるりと背を向けた。シャツのボタンを外し、痛みの走った右肩部分のみ、少し下にずらす。

 ウォルフレッドは何も言わない。

 普段、人に見せることのない箇所の肌を、彼に晒しているのだということを認識した途端、フィラーナは緊張と羞恥で自分の身体が熱くなっていくのを感じた。

「……少し赤いが痣にはなっていない。少し冷やせば大丈夫だろう。お前の反射神経の良さと丈夫さには脱帽だ」

 やがて、聞こえてきたウォルフレッドの静かな口調に、フィラーナはホッと胸を撫で下ろした。彼は真剣に診てくれていたのに、変な気分になってしまった自分は、なんてはしたない娘なのだろう。

 フィラーナが礼を述べてシャツを元に戻そうとした時、肌に何かが触れた。それがウォルフレッドの指だと感じた瞬間、またしても心臓がうるさく鳴り出す。

「……闘技場でお前に似た女を見た時は、他人の空似だと思ったが、まさか本人だったとはな……。しかも、俺の知らない男と一緒だった」

 腹の底から響くような声に、フィラーナの身体がビクッと震える。聞き慣れた声なのに、いつもとは違う艶っぽさが含まれているように感じるのは気のせいなのか。

「遠くからでも、目が逸らせなかった。お前は男だろうと女だろうと打ち解けるのが早い……」

「か、彼とは何も……んっ」

 指が、つつつ、と剥き出しの肌をなぞり、フィラーナの細い首に触れた。それだけで、身体の芯が疼くのがわかる。

 そして、フィラーナは再認識した。

 今の自分は、あまりにも無防備だとーー。
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