冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 フィラーナの身体から力が抜け、閉じた瞳から一筋の涙が頬を伝い落ちる。

 そして、まさに頭上で剣が振り下ろされようとした、その時。

 黒い影が突然、フィラーナの前に飛び出した。耳を劈くような金属が激しくぶつかる音に、フィラーナがハッとして瞳を開けると、グランの手下と同じ外套を身にまといフードを被った人物が、フィラーナを背で守るようにしてサイモンの剣を迎え撃っている。

 力で押し負けたサイモンが後ろに下がりながらも体勢を整え、再び今度は下から剣を振り上げる。間一髪、目の前の人物はその攻撃をかわしたが、剣先がフードの端にかかり、布が引き裂かれると同時に頭部が露わになる。

 薄闇の中でもはっきりとわかる、神々しいまでの光を湛えた、白銀の髪。

 フィラーナの瞳が、驚きで思い切り見開かれた。

「ウォル……っ!!」

 一瞬振り返ったウォルフレッドが、フィラーナを安心させるように口角を上げる。しかし、再び前方を向くと剣を天井に向けて掲げ、声を張った。

「ひとり残らず、捕らえよ!」

 まるでそれが合図のように、手下の半数ほどが一斉に外套を取り払った。

「な、に……⁉」

 グランやサイモン、その他の者たちの表情が狼狽の色に染まっていく。外套の下に隠されていたのは、王宮騎士団の黒い騎士服だったのだ。

 次々と騎士たちは剣を抜き放ち、手下どもに向かっていく。たちまち剣のぶつかり合う音が無数に響き渡り、大広間は大乱闘の渦に巻き込まれた。

 
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