冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
そのまま自室に戻ると、すぐに昼食の時間となった。しかし、何かモヤモヤしたものが胸に引っ掛かり、食事があまり進まない。
「ちょっと散歩にいってくるわね」
フィラーナはメリッサに告げると、部屋を出て庭に向かった。
こういう気分の時は本当は散歩ではなく、思い切り身体を動かして、心にかかる薄雲を払拭したい。ここ最近、剣術からも離れてしまっているので、かなり身体も鈍っているはずだ。
離宮からは見えないが、城本館の向こうに王宮騎士団の営舎と訓練場があると、メリッサから聞いていた。しかし、そこに行って騎士相手に剣を交えることなど許されるはずもなく、今、出来る運動といえばせいぜい散歩ぐらい。外の空気を吸って落ち着いたら、戻ってメリッサに帰郷を希望することを伝え、レドリーを呼んで手続きしてもらおう。
回廊から外へ出ると、手入れの行き届いた色彩豊かな花壇が、フィラーナを迎えてくれた。明るい陽光の下、春の優しい風が花の香りを運び、この季節を謳歌するように緑の草木も生命力に溢れ、輝いている。フィラーナは全身に自然の恩恵を浴びながらゆっくり歩いていたが、やはり庭としての規模は小さく、すぐに行き止まりになってしまった。
その先に広がるのは鬱蒼とした森。箱入り令嬢なら、ここで引き返すのが常であるが、自然をこよなく愛するフィラーナは躊躇うことなく、ドレスを持ち上げ、中へ踏み入った。
歩いてすぐの所に、花壇の水まき用の貯水池があり、その横には、小さな木の小屋が建っている。それらを避けて斜めに進んでいくと、木漏れ日の美しい静かな場所に出た。膝下までを覆う雑草の中、好奇心が赴くまま道なき道を行く。