冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 しばらく進んでいると、穏やかだった森がザワザワと葉を揺らし始めた。わずかな異変にフィラーナが空を見上げようとした時、突風が起こり、顔に何か白い物が張り付いてきた。

「きゃっ⁉」

 驚いた瞬間、身体のバランスを崩し、そのまま後ろに倒れ込む。 

「痛った……」

 幸い、地面は草に覆われていて柔らかかったため、軽く尻もちをついたぐらいで大した怪我はなかった。ゆっくりと上体を起こすと、指先に何かが触れている。

 それは白い紙で、これが顔に飛んできたのだとわかった。拾い上げてみると、紙には鳥のデッサンのような絵が描かれている。故郷の森で、ちょくちょく野鳥観察をしていたフィラーナは、その忠実で繊細な描写に感心してしまった。

「あの、大丈夫ですか?」

 すぐそばから控えめな声が聞こえてきて、フィラーナはハッと顔を上げた。

 そこに立っていたのは、サラサラと風になびく金髪に、ぱっちりとした藍色の瞳を持つ、十二、三歳くらいの少年だった。肌の色は白く、まるで一瞬、人形かと見紛うほどの美しい顔立ちをしており、着用している鮮やかな青い上衣が髪の色を引き立てていて、どことなく気品が漂っている。

(なんてきれいな子……天使みたい)

 ドレスのあちこちに草や葉が付いてる自分とは大違いだ。フィラーナは恥ずかしくなり、慌てて立ち上がった。

「はい、大丈夫です。ほら、この通り」

 それを見て、美少年の顔に安堵の笑みが広がる。そして、フィラーナの持つ紙に視線を移し、ハッと肩を揺らした。

「その絵、僕のです。拾ってくださったのですね」
「あ、はい……」

 フィラーナが差し出すと、礼を述べて少年は大事そうに受け取った。その腕の中にはさらに数枚、同じような大きさの紙がまとめられている。きっと先ほどの突風で紙が巻き上がられて、回収していたのだろう。
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