困難な初恋
「こんばんは。お友だちですか?」

「あー、この子は妹みたいなもんで!」

妹・・・昔からの知り合いか何かか?

「すみません、遅くまで連れ回して。」

すぐにお詫びを入れる。親族に近いような間柄なら、終電間近のこの時間連れまわしているとなったら印象は最悪だ。

「やー。いいのいいの。むしろ今めちゃくちゃ嬉しいよ。えー、秋葉に彼氏?」

ピンク女は心から嬉しそうに笑顔を浮かべ、秋葉側の椅子にどかっと座った。

「ちがう。会社の先輩。絡まれてたところを助けてもらったの。」

「へーっ!施設メンバー以外であんたが人と一緒にいるところなんか初めてみたわー」

ぽんぽんと飛び出す会話についていけない。

ん。施設?



「ちょっと純ちゃ・・・」

少し顔をしかめた秋葉がピンク女の袖を引っ張る。

「あ、ごめん、言わないほうが良かった?」

高かったテンションは急激に下がり、心配そうに秋葉を見ている。

「別に・・・そこまで話したなら、もういい」



そう言った秋葉に対して、純と呼ばれた女が申し訳なさそうに話し始めた。

「ごめん。会社の人に秘密にしてるって知らなくて。
あのさ、私ら同じ施設の出身で、ほら、親がいなかったり一緒には暮らせないとかの・・・で、秋葉は小学校のときに養子としてもらわれていったんだけど、うん、とにかくその施設で一緒だったんだよ。」

純は話すうちに吹っ切れたようにまっすぐこちらを見ているが、

秋葉は目線を下げたままだ。

「そうなんだ。じゃぁ、家族でもあり、幼馴染でもあり、って感じなんだね。」

さらっとそんな言葉が出た。秋葉がすっと目線を上げる。

「そう!ほんっと、そんな感じ。家族っちゃぁ家族なんだけど、それよかほんとに、そうだね、幼馴染ってイメージが強いかな。」

明るく返す女に対して、秋葉は淡々と返してきた。

「あの、申し訳ないんですが、会社では内緒にしてもらってもいいですか?」

「言わないよ。宮川さんが嫌なら。」

「すみません、成瀬さんにも」

結構仲良いってバレてんな。

「言わないって。」

眉間にシワが寄ったのに気付いたのか、すみません、と小さくつぶやく。

あ、ちょっと今のまずかったかな。

「分かるよ、言いたくない気持ち。俺も母親、シングルだから。それだけで色眼鏡で見てくるやつ、多いだろ」

フォローする気持ちで返すと、秋葉の顔もふっと安心した表情に戻り、

純がテンション高くこう言ってきた。

「そーそー!イケメンさん、分かってくれてんね。

 ね、秋葉。付き合ってみたら?」

「「え!?」」

二人の声がハモる。

こいつ、「気になってた」あたり、聞いてたな。
急激に恥ずかしくなる。

「やー、嫌がってんのかなって心配にもなって声かけてみたけど、いい男っぽいし、私らのこと受け入れたのも早いし。結構懐深いタイプかもよ。」

今の俺には最高に嬉しい言葉を言ってくれる。

「い、やでも、私今あんまりそういう気持ち無くて・・・」

断り方向の秋葉に対し、純は粘る。

「あんたそんなことばっかり言ってたら、いつまで経ってもおじさんおばさんが安心出来ないって。ね、イケメンさん、気になってんなら1回、付き合ってやってよ。」

机を挟んで前のめりになってくる彼女に、苦笑しながらイケメンさんはやめて、と言って名乗る。

「松原さんね~!あたしは鈴木純!この通りで美容師やってんの!」

純は元気に名乗った。その時。

「ちょっと待って純ちゃん!終電!!」

「あ!!!」

二人とも終電を逃してしまったようだ。
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