【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
そんな事がチラリと頭をよぎった。
あの頃、確かに私はこの人に愛されていたのかもしれない。
ご飯を食べ終わっても帰る様子もなく、昔のようにくつろいだ様子でテレビをぼんやり見ながら、時より片づけをする私に笑顔を向けるこの人が、ますますわからなくなる。
「片付け終わった?」
「はい」
タオルで手をふきながら、コーヒーを入れていた私に部長は笑いかける。
「コーヒーブラックでよかったですか?」
昔と好みが変わっていないのなら、食後お酒を飲まない日はよくコーヒーを飲みながら、映画を見たりしていた。
「ああ」
当たり前のように昔のように返事をされて、私も今までの5年が無かったような気さえしてホ来る。
コトリと2つのマグカップを置くと、私もソファに座った。
「あれ?この映画今やってるんですか?」
昔一緒にみたシリーズ物の、新しい映画だった。
「いや、借りてきた」
サラリと言って、意図的にここに来る気で、これを借りてきたことに、私は驚いて、あきれて何も言う事ができなかった。