【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら

「じゃあ、今日はスマホで撮ろう!あの頃よりきれいに今のスマホは写るからな」
そう言って食べ終わったお皿を運びながら、部長は言った。

「あっ。私やります」
慌てて立ち上がった私に、部長は首を振ると、
「早く行きたいから用意して。俺が片付けとくから」
その言葉に、私もお礼を言って準備のために、寝室に向かった。


その日は本当に楽しかった。
5年前よりも、大人になった部長との時間は、5年の月日を感じないほど自然と、安心できる時間だった。

お互いの好きな物も、嫌いな物も変わっていなくて、お互いが無理をする必要のないことが、あの頃に幸せな時間と重なる。

夕食を食べて送ってもらって一人になった部屋を見渡した。

そしてスマホを取り出して、今日一緒に見た景色の写真を見つめる。
あの頃のように2人の写真を撮ることはできなかったが、同じ景色を写真に収めたことが、少し恥ずかしくて、嬉しかった。

幸せな気持ちのまま、眠りについた私は、現実を忘れていたのかもしれない。

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