【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
「今日だけどさ、江の島水族館いかない?」

「江の島?」

「そう」
そう言ってジッと私をみた部長の瞳が、私との約束の事を言っていると思い出したのは、数秒後だった。

その事に、慌てて視線をご飯に向けると、私はわざと明るく言葉を発した。

「別に、いいですけど……」

「よかった。ずっと行きたがっていたもんな」
その言葉に、私は昔の約束だと確信した。

別れる数週間前にした約束、別れた日の週にいくはずだった場所。

二人でカメラを持って江の島の海を撮り、水族館で私の大好きな魚たちを見る。
すごく楽しみにしていた。
その事を思い出して、少し切なくなる。

5年越しに行けることになったが、私はもうカメラは持っていない。

「写真撮るんですか?」
私の問いに部長は小さく首を振った。

「あの日以来、カメラは持ってないな」
私と同じだという事に驚いて、部長をみた。

「羽田は?」

「私もです」
小さく答えた私に、この空気を何とかしようとしたのか、部長が笑顔を浮かべた。
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