【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
「いえ、どうして私なのかと……」

なんとか言葉を発した私を見て、課長は笑い声を上げた。

「ここだけの話ね、これだけの人だと、他の女子社員じゃ仕事にならないだろうと思ってね」

その言葉の意味を理解すると、私は普段の自分を恨んだ。

この人が原因で男性と深く付き合わないようになったのに、そのことが理由でこの人の側にいることになってしまうなんて、皮肉以外の何ものでもなかった。

「羽田さん、申し訳ないけど、しばらくお願いできるかな?」

まるで他人に話しかけるような言葉からは、佐伯部長が何を考えているのか、この再会をどう思っているのかなどわからず、私はなんとか冷静さを装うと、小さく息を吐いて佐伯部長を見た。

「羽田沙耶です。よろしくお願いします」

小さく頭を下げると、何か佐伯部長が呟いたような気がして、チラリと佐伯部長を見た。

しかし、もう一度その言葉が繰り返されることはなかった。
< 15 / 287 >

この作品をシェア

pagetop