【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
「この会社だったんだな」
上から降ってきた抑揚のない声に、私は心臓が凍り付くような気がした。

そのままの姿勢で動かない私に、佐伯部長が1つ開けて椅子に座るのがわかった。

「二度と会わないと思ったのにな」
その言葉に、涙が溢れそうになるのと同時に怒りがこみ上げてきた。

自分が私をもてあそんだのに。浮気をしたのに、どうしてそんなことを言われないといけないの?

あの頃より私だって大人になった。

何も知らずにひたすらただ、恋をしていたあの頃とは違う。

私は佐伯部長にわからないように息を吐くと、顔を上げて表情なく彼を見た。

「私こそ、この会社にいらっしゃるなんて知りませんでした」

「そうなの?」

私が追いかけてきたとでも思っているのだろうか? 自惚れるのも大概にしてもらいたい。

そんな思いで佐伯部長を睨みつけると、意地悪そうに口角を少しだけ上げたその人がいた。

昔の面影はなく、知らない男の人のように見える。
きっと彼が見ている私も、昔の屈託なく笑って彼にくっついていた私ではないだろう。

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