【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
「起きたのか……」

寝起きのせいか、少しかすれた声がして、私はビクッとしながらカバンの中から手を引き抜いた。

「俺まで寝てたな……悪い」

そう言いながら、佐伯部長は慣れた手つきでシートを元の位置に戻す。
そして、軽く首を回しながら、首元に手を当てた。

――あ……疲れてる時の仕草……。

昔、何度も見た光景が脳裏に蘇る。

「個人情報だとは思ったけど、お前、いつも薬を飲むと眠くなるだろ? 会社でだいたいの住所は確認してきたんだけど、マンションまではわからなくて」

そう言われ、窓の外に目を向けると、見慣れた公園の駐車場だった。

「すみません……起こしてくれればよかったのに……」

消え入りそうな声でそう呟くと、佐伯部長は「よく眠ってたからな」とだけ言い、静かに車を発進させた。
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