【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
「どこ?」

「え?」

唐突な問いに、一瞬意味がわからず聞き返す。
けれど、マンションの場所を聞かれているのだと理解し、私は言葉をのみ込んだ。

「別に、お前のマンションを知ったからって押しかけるつもりはないし、知ろうと思えば、俺はいつでもお前の住所くらい調べられる」

淡々とした口調でそう言われ、なぜか私の方が拒絶されたような気がした。
胸の奥がじわりと重くなり、心がまた暗く沈みそうになる。

「そんなこと、わかってます。あの信号を右です」

窓の外を見つめながら静かにそう伝えると、佐伯部長は大きくため息をついた。

「お前にとって、俺なんて二度と顔も見たくない相手だよな。でも今はお前の上司だから、我慢してくれ」

――わかりました。じゃあ、こうやって優しくするのも、『お前』って呼ぶのも、やめてください。

そう言いたかった。
なのに、その言葉はなぜか喉の奥で絡まり、音にならなかった。
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