【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
「沙耶」

静かに呼ばれたその名前――五年ぶりの響きに、驚くほど心臓が跳ねた。
その言葉と同時に、捕まれた手のひらが熱を帯びる。

ゆっくりと振り返ると、そこにあったのは、あの頃、不安になったり心配したりするときの優悟の顔だった。

「頭痛は? もう大丈夫か?」

「……大丈夫」

無意識にこぼれた言葉だった。
佐伯部長の瞳に囚われたように、視線を外せない。

たった一、二秒のはずなのに、永遠のように長く感じた。

「そうか、おやすみ」

「おやすみなさい……」

その言葉を合図に、繋がれていた手がふっと離れる。
指先から熱が消え、不安に似た感情がじわりと広がっていく。

――どうして?

名前なんて呼ばないで。
心配なんてしないで……。

あなたは、私を裏切ったんだよ……。
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