【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
いまだに、彼のこととなると過剰に反応してしまう自分に、嫌気がさす。

そんな気持ちを振り払うようにメールをチェックしていると、一通のメールに手が止まった。

――どうして……。

開いたメールには、昨日やりかけていた企画書が添付されていた。
それは、まるで私の考えをそのまま形にしたかのような完璧な仕上がりだった。

もちろん、差出人は――佐伯部長。

あの後、会社に戻ったの?
……バカじゃないの?

どうして、私なんかのために無理をするのよ。

昨夜の、昔から変わらない"無理をしたときの癖"が脳裏によみがえる。

怒りにも似た感情と、認めたくない嬉しさが入り混じり、複雑な気持ちのままメールの本文を確認する。

業務連絡の最後に、短く添えられた一言。

「無理はしないように」

それだけのシンプルな言葉。

なのに、胸の奥がざわつく。

どんどん、あの人のことも、自分のことも、わからなくなっていく。

昔のような、わかりやすい優しさも、甘い言葉も、もう何もない。
けれど――根本的なところは、変わっていないの?

――まだ、優しいままなの?

抑え込んでいた思いが、静かにあふれ出した。
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