【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
その時、フロアがざわめき、佐伯部長が入ってきたのに気づいた社員たちが、一斉に彼のもとへ集まっていく。
「部長! おめでとうございます。グローバルフーズの契約、取れたんですね!」
弾むような声と祝福の笑顔が飛び交い、彼の周りには自然と人だかりができていた。その光景は、まるで昔と変わらない。どこにいても、彼は人を惹きつけるのだ。
ぼんやりとその様子を眺めていた私だったが、不意に佐伯部長と視線がぶつかった。
まっすぐに向けられた視線に、一瞬、呼吸が止まる。
はっとして、慌ててPCの画面に目を戻したものの、心臓の鼓動はすぐには落ち着いてくれなかった。
気を紛らわせるようにキーボードに指を走らせつつ、そっともう一度彼の方を盗み見る。
そこにいたのは、昔のように無邪気に笑う彼ではなく、周囲の称賛を受けながらも余裕を漂わせる大人の顔だった。
「みんなが今まで努力してきたからだ」
そう穏やかに労う姿は、まさに立派な上司そのもので、彼が確かに過去とは違うことを嫌でも突きつけられる。
けれど、その指先が無意識に首元へと伸びたのを見た瞬間、私は胸の奥がざわつくのを感じ、居ても立ってもいられなくなった。
「すぐ戻るね」
始業十分前に突然そう告げて席を立った私に、友里も満ちゃんも驚いた表情を見せたが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
私はただ衝動のままに、ビル内のコンビニへと向かった。
「部長! おめでとうございます。グローバルフーズの契約、取れたんですね!」
弾むような声と祝福の笑顔が飛び交い、彼の周りには自然と人だかりができていた。その光景は、まるで昔と変わらない。どこにいても、彼は人を惹きつけるのだ。
ぼんやりとその様子を眺めていた私だったが、不意に佐伯部長と視線がぶつかった。
まっすぐに向けられた視線に、一瞬、呼吸が止まる。
はっとして、慌ててPCの画面に目を戻したものの、心臓の鼓動はすぐには落ち着いてくれなかった。
気を紛らわせるようにキーボードに指を走らせつつ、そっともう一度彼の方を盗み見る。
そこにいたのは、昔のように無邪気に笑う彼ではなく、周囲の称賛を受けながらも余裕を漂わせる大人の顔だった。
「みんなが今まで努力してきたからだ」
そう穏やかに労う姿は、まさに立派な上司そのもので、彼が確かに過去とは違うことを嫌でも突きつけられる。
けれど、その指先が無意識に首元へと伸びたのを見た瞬間、私は胸の奥がざわつくのを感じ、居ても立ってもいられなくなった。
「すぐ戻るね」
始業十分前に突然そう告げて席を立った私に、友里も満ちゃんも驚いた表情を見せたが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
私はただ衝動のままに、ビル内のコンビニへと向かった。