【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
あの日以来、何かが確かに変わったように思う。
私自身の気持ちも、部長との関係も。

完全に上司と部下という関係になれたと思う。

そして、オーストラリアとの契約も大詰めを迎えていた。
緊迫した会議の中、画面の向こうで相手の会社のCEOたちが小声で話をしているのをジッと私たちは見つめていた。

「ではそれで契約しよう」
その言葉でようやく終わったという気持ちと、やり切った気持ちで私も笑顔になった。

これで部長と一緒にやってきたことが実ったように思う。

「お疲れ」
会議室を出てると、今日は同席していた役員たちと出ていったはずの部長が、いつの日かのように壁にもたれていた。

「お疲れ様です」

少し微笑んで言った私に、なぜか部長は不機嫌そうに顔を歪めた。
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