凛々しく、可憐な許婚
「あれ、光浦先生のお隣にいるイケメンはどなたですか?」

「ああ、田村先生。彼は横浜校から異動してきた化学の鈴木先生だよ」

職員室にぞくぞくと職員が集まってきた。


実は、今日は4月1日。

新年度が始まる今日は、教師達の"受け持ち"が発表される大事な1日だったのだ。

"イケメン先生"について質問してきた英語教師の田村美雪(たむらみゆき)28歳と、その質問に答えたベテラン体育教師の早田尚道(わさだなおみち)48歳も出勤してきた教師の一人だ。

「早田先生、御無沙汰しております」

椅子から立ち上がると、尊は丁寧に早田と田村に向かってお辞儀をした。

早田と尊は2年前まで、横浜校で一緒に働いており、顔見知りだったと語った。

そして、尊は田村をチラリと見ると

「化学の鈴木です。どうぞ、よろしく」

と言って頭を軽く下げた。

田村はポッと頬を赤くして、

「こちらこそよろしくお願いします。英語の田村美雪です」

とお辞儀を返した。

田村に向ける尊の態度は、先程、咲夜にしたような過剰なスキンシップはない。

むしろ、高校時代のように、無難な微笑みをたたえており王子の貫禄を見せつけている。

"あれっ?やっぱりこっちが本物なのかな,,,。私がからかわれていただけ?"

そういえば、今日はエイプリルフール。

"もしかしたら婚約話も学園長の壮大な嘘なのかもしれない"

実は、道実学園長は、咲夜が赴任してきた年から3年間、毎年4月1日にはどうでもいい嘘をついて咲夜をからかってきたのだ。

「幼馴染の娘の咲夜ちゃんは、俺の娘のようなものだからな。真面目でからかいがいがあるし、病み付きになりそうだよ」

と、去年も

『今年から美術部の顧問を頼む』

なんて言って、咲夜を驚かせ、最後には笑って種明かしをしたりしたのだ。

クールな"鈴木先輩"まで巻き込んだ壮大な嘘に、咲夜は一人納得しながら、尊を見つめて顔を赤らめる田村を見てフフっと笑った。

"みとれる気持ちもわかるよ。美雪先生"

"先輩に憧れる気持ち"を取り戻した咲夜は、勝手な勘違いを壮大に膨らませ、無意識にその場をやり過ごそうとしていたのだった。
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