凛々しく、可憐な許婚

姫と殿の伝説

食事が終わって学食を出ると、咲夜と尊は、そこで雅臣と別れた。

「俺は唯李と約束があるから帰るよ。今日は俺んとこ、部活はないしね」

雅臣は、写真部の顧問をやっている。

咲夜は3年前、雅臣本人から

『弓道は高校で辞めたんだ』

と聞かされた。

『周りの奴らと違って、俺には弓道自体に思い入れはなかったし、ただ女子と一緒に出来る部活だからって弓道部に入ったと言っても過言ではない』

と、雅臣が胸を張って話したことを覚えている。

咲夜も、弓道は好きだが、そればかりに命を懸けているわけではない。

辞めていく人を責めたり、追い詰めるのが正義とも思ってはいない。

雅臣は、現在、写真を趣味にしていて、唯李と二人であちこち旅行をしては写真を撮り、コンテストに応募して入賞を果たすなど、写真生活を満喫している。

「雅臣先生、唯李ちゃんによろしく伝えてくださいね」

「ああ、伝えとくよ。あいつもまた会いたいって言ってた」

雅臣が咲夜に笑顔を向ける。二人の間柄は、この三年で随分と打ち解けていた。

複雑な表情を浮かべる尊に

「尊、またな。今夜のこと、後で詳しく聞かせろよ」

と、雅臣はニヤリと笑って手を振りながら去っていった。

顎に手をあてて立ち止まる尊に

「鈴木,,,先生?どうしました?」

と、咲夜が尋ねる。

首をかしげるクセを今日は何度も話題にされ、しまいには注意された。

今日の周囲の態度を見て、さすがの咲夜も、この癖が周囲に悪影響を及ぼしているのではないか、と自覚するきっかけとなった。

かしげそうになる首をなんとか真っ直ぐに保って、微笑みそうになる顔を真顔に保つ。

努力のあとを見せているのに、何故か目の前の尊は不機嫌なままだ。

「名前,,,」

「なまえ?」

傾きそうな首を必死に耐える。

「雅臣は"雅臣先生"なのに、なんで俺は"鈴木先生"なんだ,,,?」

「ああ!」

咲夜は納得した様子で

「雅臣先生ではなく、加藤先生って呼びますね」

と頷いた。

「向かってる方向が違うよ。そっちじゃなくて尊センセでしょ?」

"そっちも違うような,,,?"

顔をしかめる咲夜の眉間を、尊が人差し指でツンとつつく。

「あの癖、俺の前だけは封印しなくていいから」

"いつのまにか僕から俺になってるし"

二人になったとたん、朝と同じような態度で接する尊に戸惑いつつも、

"冷静になれ、エイプリルフール、エイプリルフール"

と咲夜は自分に言い聞かせた。

「た、尊先生。今から弓道部の生徒たちを紹介しますね。今日は、新3年生と2年生が部活に来ているはずですから出動初日です」

と、エスカレートしそうな尊のスキンシップを立ち切るきっかけとした。




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