凛々しく、可憐な許婚
道場に着くと、すでに部員が練習を始めていた。

"パシン"

「ヨッシャ(良い射)」

小気味良い、矢が的にあたる音と共に、"的中"を讃える部員の掛け声が響く。

「みんな集合」

女子部長の長澤真南(ながさわまなみ)高3が、咲夜に気付いて部員を道場の中央に集める。

道具を定位置に片付け、集合する生徒達。

皆、礼儀正しく、表情も真剣だ。

「今日もご指導よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

主将の挨拶に続いて、他の部員も続けて挨拶をしてお辞儀をする。

「みんな、お疲れさま。これから新しい顧問をご紹介しますね」

咲夜は挨拶が済むと、

隣に立つ、尊に目を向けて言った。

「鈴木尊先生です。担当は化学で、このはな学園横浜校から異動して来られました」

尊が、微笑みを浮かべて軽くお辞儀をすると、生徒達から"ほぅ"っと溜め息が漏れた。

「鈴木先生は、このはな学園弓道部のOBで、この学園を何度も全国大会に導いた立役者です」

咲夜は、当時のことを思い出して、自分のことのように自慢気に語りたい気持ちでいっぱいだったが、いつもの笑顔で話を続けた。

「鈴木先生に学べば、精神面の強化だけでなく、良い成績にも繋がると思います」

咲夜の言葉に、生徒達から拍手が起こった。

尊が、咲夜に促され、場を引き受けた。

「ご紹介にあずかりました鈴木です。この道場で最後に練習したのはもう、8年ほど前のことになりますが、あの頃抱いていた気持ちは今も変わらず持ち続けています」

尊は、チラッと咲夜を見て微笑むと

「光浦先生と二人で、皆さんを全国大会に連れていきます。だから、君達も僕達を信じてついてきてほしい」

"やっぱり王子だ"

まるでプロポーズのような言葉に、女子も男子も真っ赤になっている。

「はい!」

生徒の素直な返事がこだますると、この場に立ち会えた喜びが、咲夜の胸を一杯にするのだった。
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