凛々しく、可憐な許婚
そういえば、明日土曜日は12時から結納式だった。

眠っている咲夜の横で、尊は明日の段取りを考える。

実は、このところ尊を避けているようにも見えた咲夜は結納のことを忘れているのではないかと心配していたのだか、昨日、咲夜の母、万智子からマンションに電話がかかってきていたから大丈夫だろう。

咲夜の父,兼貞が、今日ホテルのこの部屋を用意してくれたのは、このホテルの中に入っている料亭で略式結納式をする予定だからだ。

歓迎会の二次会が終わって一旦自宅に帰ることも考えたが、幹事である咲夜の帰宅が遅くなるかもと、尊が兼貞に相談した。

結納の品選びは済んでおり11時半には料亭の個室に届くことになっている。予約していたエンゲージリングもお揃いのマリッジリングもすでに尊の手元にある。

結納品は、屋内喜多留(やなぎだる),末広(すえひろ),友白髪(ともしらが)子生婦(こんぶ)寿留女(するめ)勝男節(かつおぶし)金宝包(きんぽうづつみ)長熨斗(ながのし),目録(もくろく)の九品。

実用的なものは現金である金宝包ぐらいなもので、他は縁起物である。

酒樽、扇子、麻紐、昆布、するめ、かつお節、あわび 、、、。

どれも、両家の繁栄を祈るという趣旨があって、結納は、例え略式ではあっても、古き良き日本の伝統を大切にする光浦家にとっては外せない行事だと尊は思っていた。

結納は、両家の結びつきを強くし、二人の婚約を公に宣言するためのものだ。

学校関係者には公言できなくても、両家の親戚や友人には、咲夜が尊のものであるということを示すことができるようになる日。

本人の魅力に加え、お嬢様である咲夜を狙う輩は多い。しかし表だって彼氏がいないと思われている咲夜が25歳で結婚するとは誰も思っていないのだろう。

尊の見る限り、咲夜にアプローチをかけている周囲の男性は、許嫁がいるとは夢にも思わず、ガードの固そうに見える咲夜を慌ててものにしようと焦っている様子はない。

しかし、婚約話を知ったライバルが何を仕掛けてくるかわからないのだ。そう、吉高のように,,,。

ただの口約束では、例え結婚が3ヶ月後に約束されていても不安だった。

結納品で縛るわけではないが、結納は両家の正式な約束である。

尊は、結納の前日に、咲夜と思いを通わせることがてぎて良かったと、傍らに眠る咲夜の頭を撫でながら思っていた。
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