凛々しく、可憐な許婚
「尊くん、今日は結納式じゃ,,,」

朝6時、時計のように正確に咲夜がガバッと体を起こし目を覚ました。

「おはよう、咲夜。大丈夫,まだ6時だよ。時間は十分ある」

「ああ、私寝過ごしたかと,,,」

咲夜が息をつきベッドから降りようとするのを、尊が横から抱え込む。

「昨日捕まえておくことができて良かったよ。結納式に許嫁が不在なんて小説の中だけで十分だ」

「えっと、、、ごめんなさい」

咲夜は、昨日酔って見せた醜態を思い出し真っ赤になっている。

しかし、昨日の咲夜の剣幕であれば、誤解したまま婚約を破棄することまで考えていたかもしれないのだ。

そんなことにならなくて良かったと、ため息をつきつつ、尊は

「朝食を運んでもらおうか?夕べ飲み過ぎて、ホテルに泊まった教職員がまだいるかもしれないし」

と、内線を使ってフロントに朝食の注文を入れた。

「何から何まで任せきりでごめんね。今日からは私も弥生ちゃんと向き合って、きちんと結婚式の準備をするから」

咲夜は尊に頭を下げた。

「これ、こっちに届けてくれたんだね」

そして、昨日のうちにホテルのフロントに届けてもらっていた桜色の振り袖が壁にかかっているのを見つけて手を伸ばした。

「振り袖着るのもたぶん今日が最後だよ」

「えっ?どうして、、、」

「既婚者は、留め袖か訪問着でしょ。奥さん」

咲夜の見開いた目が弧を描き、首を傾げて満面の笑みになる。

"この最終兵器も俺だけのものだろう?"

「尊くん?」

天然過ぎる許嫁に、これからも振り回される予感が尊の心をザワザワと騒がしくした。
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