凛々しく、可憐な許婚

小さな騎士

「姉さん、尊さん、おめでとう」

結納式を終えてホテルのフロントに出てきた鈴木家、光浦家の面々の前に、兼貞の秘書である松浦に連れられた咲夜の弟:真那音(10)が駆け寄ってきた。

「真那音くん、ありがとう」

「姉さん、着物姿とっても綺麗だね」

真那音は咲夜の15歳年下の弟。光浦家に生まれた念願の男児だ。

咲夜の祖父:光浦義明には子供が二人いる。

現時点での跡取りは長男である兼貞に決まっていた。兼貞には三つ年下の妹がおり、その家には三人の娘がいる。

真那音が生まれるまでは、孫の代の後継者候補は女児四人の孫の中から選ばれるはずだった。

一番年長で内孫、更に何でも器用にこなす咲夜に期待が高まる。

咲夜が15歳-真那音が生まれる年までは、跡取りとしての帝王学は徹底的に咲夜に叩き込まれてきた。

真那音が生まれたからとはいえ、無事に成長できるとは限らない。

咲夜の後継者候補としての教育は並行して行われた。

そんな咲夜が教師をしていられるのも、祖父や父親が現役を退く時、もしくは真那音が大学を卒業する年、すなわち咲夜が37歳になる年までと決められているのだ。

「あなたが尊さん?噂通りのイケメンですね」

前回、尊が光浦家に挨拶に行ったときには、真那音は習い事の一つである空手の試合のため不在だった。尊と真那音は今日が初対面である。

小学4年生の真那音は、咲夜ほどではないが綺麗な顔立ちをしていた。空手を習っているだけあって、小さくて細いが筋肉もそれなりについている。

帝王学も学んでいるからか、普通の4年生とは異なり大人びた印象がする。

「こんにちは。真那音くん。鈴木尊です。よろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします。ところで、尊さん、今日、マンションに泊まりに行ってもいいですか?僕、姉さんと尊さんがどんな生活をしているのか見たいんですよね」

咲夜は一瞬驚いた顔をしたが、なんと答えてよいかわからず尊を見た。

"新たな刺客投入か、、、"

尊は笑顔で頷いて

「歓迎するよ」

と言った。

「うれしいです。姉さん、行こう」

咲夜の横にぴったりくっついていた真那音が咲夜の腕を引いて歩き出す。

尊は、小さな咲夜の騎士の登場に苦笑しながらも、兄弟のいない自分にも弟が出来てうれしく感じるのだった。

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